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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日
12/87

12.魔女

 水の塊が、またこっちに向かってきた。

 何とか一歩下がったが、その程度では当然、逃げられる筈もなく、捕まってしまった。


 今度は、頭を執拗に這い回る。輪ゴムが切れ、腰まである髪がバラけた。さながらテレビから這い出るホラー映画の女幽霊だ。


 お湯は、空中で髪をもみくちゃにして、再び離れた。またドブ色になっている。

 そっと、髪に手を触れた。全く濡れていない。

 乾いてサラサラだった。

 ドブ水は、さっきと同じようにゴミ山の上で身震いして、清水に戻った。


 「ゆうちゃん、髪長いと肩凝らない?」

 「いや、えー……、あぁ、まぁ、凝るかな」

 ツネちゃんの突然の質問で我に返った。


 いきなり何の話だよ。


 「今、政治(まさはる)米治(よねじ)叔父さん、お酒飲んでるから、ちゃんと切るのは明日でいい?」

 「いや、え? マー君、朝っぱらから呑んでんの?」

 オレは、黒山羊の杖を持った奴の方を見た。別に顔は赤くない。


 「それ、宗教(むねのり)だって言ったろ。で、今日は取敢えず、肩くらいにするだけでいい?」

 「いや、えー……マー君、今、分家なんだ?」

 「うん。分家。久し振りだからって、何か盛り上がってる。お昼にみんなで分家に行くから、その頭もうちょっと何とかしよう」


 「いや、いやいやいや、何で分家行くんだよ。オレ、行かねーから」

 「そう。でも、掃除する時とか、邪魔になるから、頭はなんとかしよう」


 「中身もね」

 真穂(まほ)が余計な一言を付け加えたのを、オレの地獄耳は聞き逃さなかった。


 「ッんだとォ!? ゴルァァッ!」

 「キャー! 怒ったー!」

 真穂は賢治の背後に隠れたが、オレは容赦する気はない。

 二人まとめてぶん殴ってやる。


 ロリ声が、国籍不明の言語で何か言っている。

 あの外人共、日之本帝国に来たんなら、言葉くらい覚えろよ。

 大男がオレと真穂たちの間に割り込んできた。


 何だコイツ、やろうってのか?


 大男の右手で長剣が輝いていた。ギョッとして身を退く。

 刃が白い光を放ち、刀身の様子はよくわからない。と言うか、光そのものが刀身になっているように見える。


 つーか、どっから出した!? そんなもん!?

 さっきまで手ぶらだったよな?


 「ゆうちゃん、髪切るからじっとしててね」

 ロリ声が優しく語りかける。オレはすかさず、声のした方を振り返った。


 メイドさん、金髪美女、ムネノリ君しかいない。


 「動くと危ないよ」

 ロリ声の主は、ムネノリ君だった。


 時代劇みたいな名前した三十路のおっさんがロリ声……


 「いや、ちょっ、おま……何て声出してんだよ。キモいから喋んな」

 まだ何か言おうとしていたムネノリ君を黙らせる。


 ロリ声のおっさんとか、キモいにも限度ってもんがあるだろ。常考。

 自分でもおかしいと思えよカスが。杖もキモいし、声もキモい。

 あーヤダヤダ。こんなのが身内とか、やってらんねー。


 「ゆうちゃん、それはないだろ。宗教(むねのり)は声変わりしてなくて、これが地声なんだよ」

 「いや、キモいもんはキモいだろう」

 ツネちゃんは聞き慣れてるから何とも思わないだろうが、オレは鳥肌モノなんだよ。


 「貴方のように口臭が酷い訳ではなく、発言の内容に問題がある訳でもありません」

 金髪美女が、流暢な日之本帝国語でオレに意見する。


 生意気なクソ女め。


 そもそも、何でその距離で口臭とかわかるんだよ。お前は犬か。

 そんな手には引っ掛かんねーよ。バカめ。

 オレはホントのことしか言ってねーんだ。なんも問題なんかない。正論を言うオレは正しい。メス犬はすっこんでろ。


 生意気な外人女を論破してやろうと、口を開きかけた瞬間、目の前を白っぽい何かが通り過ぎた。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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