プロローグ
始めて書く異世界(未来)転生モノです。
文章力に関してつたない部分が多いと思いますが、温かく見て頂けると幸いです。
注 ※エルフなどは出てきません。
太平洋に浮かぶ孤島。
東京都に属するその島は、『箕葉山島』と言った。
人口僅か400人。本土からのコンタクトは定期船が1ヶ月に3回来ることのみ。小さな島だが、自然に溢れ、島民の繋がりも厚い。
――――俺の自慢の島だ。
「じゃあ、行ってくる!」
開き戸を勢い良く開く。ガラガラという心地いい音が耳に入って来た。
「気を付けてな」
「ちゃんとお昼前には帰ってくるのよ!」
祖母と母親の優しく、温かい声。
「分かってるー!」
俺は答えると、海に向かって走りだした。
2013年8月12日。天気、快晴。気温36℃湿度78%。ねっとりと肌に絡みつく蒸し暑い空気ですら、少し心地よく感じる。
俺がこの平和な空気に戻ってこれるのは、もう少し先の話になる。
♢ ♢ ♢
君は、未来がどんな世界になると想像するであろうか?
ロボットやAI《人工知能》などのコンピュータが発達し、人間生活においてヒトでなく機械が中心になっている平和な世界だろうか?
それとも、資源が枯渇し、政治が破綻、人々が争い続ける荒れた世界だろうか?
人によって多種多様な価値観で語ってもらって構わない。その全てを、認めよう。
しかし、少なからず俺のいる未来は、先に挙げたどちらでもないようだ。
『洋上要塞都市 Midgard』
全ては、ここから始まる…………
ミッドガルド第13先遣小隊 東部戦線にて
〈敵数は3200。母艦は北東の海上32km。現在、航空偵察部隊が母艦に接近中〉
無線から聞こえてくるのは、男の声。
「了解。引き続き警戒を続けろ」
応答するのは、少女だ。
〈了解。通信終了〉
薄暗い部屋。部屋内を照らすのはレーダーやコンピュータの液晶パネルからの僅かな光のみ。
溜息を吐き、目頭を押さえて椅子に座りこむ金髪の少女。綺麗に整った顔立ち、堅苦しい黒服を着ているが、細い腕や脚、一言で言うなら美少女であった。年は17、8歳といったところだろう。
「だいぶイライラしているな」
少女に話しかけるのは、右目に傷のある50歳くらいの男。
「当り前よ。先週攻めて来て撤退したのかと思ったら、また侵攻して来たのよ!」
声を荒らげて返す少女。
「まあ、そう言うな。向こうにも事情というものがあるだろう」
まったりとした声は、少女のイライラを増幅させる。
「なんで私たちが向こうの事情をくみ取って戦わなきゃいけないのよ」
「まあ、軽く片付けてしまおうじゃないか」
男は、笑い混じりに言い放つ
「はぁ……エルドゥイはいつもそう! なんでそんなに楽観的なの?」
少女は立ち上がって、エルドゥイと呼ぶ男を怒鳴りつける。すると、男は笑みを浮かべる。
「戦場で指揮官がそんなことでは、その戦いは決着です。まずは、落ち着きなされ」
エルドゥイは、冷静な声で少女を落ち着かせる。少女はハッとした顔をすると、勢いよく席へ腰を落とす。
「それでこそ指揮官ですよ。『ミッドガルド第13先遣小隊 母艦ヴェール艦長及び総指令』ウィルビア=エルーナ」
「……その呼び方。やめてよ。『ウィルビア』なんて、大嫌いなんだから」
♢ ♢ ♢
太平洋 箕葉山島北東沖合
「いやー釣れねーなー」
空は雲ひとつない快晴。小さな波で揺れる船。潮風に無造作な黒髪がなびく。白のタンクトップに薄茶色の短パン。昭和の夏休み小僧の服装だ。
午前9時12分。それは、宮国朱音の日課である漁の時間であった。祖父から受け継いだ漁船を運転して約30分。いつものポイントは、島が見えなくなるほどの場所だ。
なにかいつも物足りないと感じていた朱音の唯一の楽しみだったりする。
「やばい、今日は全然アタリがねぇ」
漁船の上から垂らした釣り糸は、波に揺らされるだけでそれ以上は動きを見せない。釣りを開始して、もう軽く2時間が過ぎようとしていた。
その時、ノイズと共に無線が鳴り始めた。
〈……さん……ひゃく。……かんは……とう……めーとる〉
「あ? なんだ、このポンコツ」
普段はウンともスンとも言わない無線が突然鳴りだした。無線の元に向かい、周波数調節のダイヤルを回す。しばらくはノイズが続いたが、調整するうちに鮮明に聞こえるようになっていった。
〈母艦まで残り11km。まもなく接触します〉
〈よし、警戒を怠るな〉
〈了解〉
「母艦? 自衛隊が演習でもやってんのか?」
箕葉山島の近海は、よく自衛隊の演習場になっていた。度々島の上空をヘリや戦闘機が飛び交っていたのを朱音は鮮明に覚えていたのだ。
「こちら、『みはやま号』。そちらは、自衛隊の演習でしょうか?」
朱音は、通信を試みるが応答は無い。
〈航空部隊の状況報告を〉
〈母艦まで残り6km。飛行速度2784km/h………〉
淡々と続く正体不明の2人による通信。
「あーあの、聞こえてますかね? もしもーし!」
マイクに向かって最大声量で叫ぶ。だが、朱音からの通信は全く聞こえていないようだ。
その時、轟音が近づいてくるのに朱音は気付いた。それは、どんどん大きくなり、音の主は姿を現す。
朱音の頭上100m。白い物体が、蒼穹を切り裂き飛んで行く。それは、戦闘機の様なものに見えた。
「…………すっげぇ」
少年は、思わず感嘆の声を漏らす。
V字編隊で飛行する5つの白き物体は、いつしか遥か遠くになってしまった。
しかし、次の瞬間。白いはずの物体は、赤へと姿を変えた。5つの飛行物体は、群青の海へと落下した。
それは墜落というより、撃墜されたと言った方が相応しい様子だ。
「なんで……」
〈航空部隊が全機……撃墜されました〉
無線から聞こえてくる動揺を隠せない男の声。
〈なっ……了解。くっ、総員、第一種戦闘配置〉
一瞬動揺を見せる女性の声だが、対応は冷静であった。
〈総指令!〉
スピーカーから聞こえてくるのは、先程の男よりも若い男の声。
〈どうした?〉
〈航空部隊が撃墜されたポイントに船影を確認。かなり小型ですが、どうされますか?〉
〈……こちらからコンタクトする。周波数をオープンに――――こちら、ミッドガルド第13先遣小隊総指令のエルーナだ。そなたは何者だ。応答せよ〉
朱音は釣り竿を投げ捨て、その通信に慌ててマイクを口に当て答える。
「こちら、みはやま号。俺は敵じゃない!」
必死に応答する。だが…………
〈応答ありません…………まもなく、魚雷射程圏内〉
若い男の声は、冷静に告げる。
「魚雷って、ちょっと! 俺は敵じゃないって!」
マイクに向かって怒鳴る。
〈…………応答なしより、船影を敵と判断。魚雷発射用意。発射権限を副官に譲渡〉
「おい、聞いてんのか! くそっ、このオンボロ!」
朱音は、マイクを投げつけ、漁船のエンジンを始動させた。
この演習が、ただの演習ではないことを赤音は感じ取っていた。
後方数km。水面に武骨な何かが浮いているのが見えた。巨大な何かが……。
〈魚雷発射準備完了〉
その通信の数秒後、どすの利いた男の声で〈魚雷発射〉の言葉が無線機から発せられた。しかし、それはフルスロットルのエンジン音にかき消される。
漁船を最大速度で航行させる。揺れによって、釣り竿は船上から落ちた。しかし、今の朱音はそんな事を気にしていられる状況ではなかった。
朱音の額に滲む汗は、蒸し暑さから噴き出るものよりは、死への恐怖による冷や汗。
「俺が死んでも、この船だけは守る。じいちゃんの形見だけは、絶対に!」
船尾を見ると、スクリューによる船尾の水しぶきの間から見える不穏な影。それは、着々と漁船に近づいていた。
「頼む。この船だけは……」
その時、朱音の脳内にある言葉が響いた。
船か命のどちらかを選べと言われたら、必ず命を選べ。船と運命を共にするのは、俺みたいな1人前の漁師になってからだ。
次の瞬間、今まで穏かだった海から突如巨大な波が生まれ、波に乗った船体は水面から跳ね上がり、朱音は放り出された。
「しまっ…………」
すると、目の前が光に包まれた。
爆音と爆風が放り出された朱音に浴びせられる。
俺、死ぬのか…………。
頭にぬるい感触が伝わり、全身が水に包まれる。朱音の意識は徐々に消え、最後には完全に消失した。
♢ ♢ ♢
第13先遣小隊 母艦ヴェール司令部にて
〈魚雷着弾を確認。これより敵本体への攻撃を開始する〉
若い男の報告が終わり、一瞬母艦司令部は安心感に包まれた。しかし、それも束の間。すぐに空気が変わる。
「総員、第1種戦闘配置。航空部隊の応援を本部に要請せよ」
〈了解――――それと、指令〉
「なんだ?」
〈送信者不明の通信が入っていました。発信源は魚雷の命中地点付近です。ノイズが多くてよく聞き取れませんが、お聞きになりますか?〉
「いいわ、そんなの聞いてる時間なんて…………」
その時、エルーナの脳内にある可能性が浮かんだ。
「ねえ、この通信システムって、一定数以上のノイズが通信に含まれると録音だけされて直接通信はされないのよね?」
エルーナは、エルドゥイに問う。
「ええ、そのはずですが」
「じゃあ、こっちに回して」
エルーナは、嫌な予感がしているようだった。
〈分かりました。送信します〉
通信のみが聞こえていたエルーナのヘッドセットに突然ノイズが響いた。
だが、ノイズの奥にかすかな声が聞こえていた。
〈……こち……みは…ま……う……れは……てき……じゃ……な……い〉
「敵じゃないって言ってる」
「敵じゃないだって?」
「ノイズ混じりで聞き取りにくいけど、確かにそう言ってる」
「だが、あの魚雷では、生存している可能性は低いぞ」
「だとしても、非戦闘員を殺害したなんて本部に知られたら、兵士一生の恥よ……」
エルドゥイは、溜息を吐くとヘッドセットへと静かに言った。
「――――現時刻を以って、第1小艇部隊に『本艦魚雷発射によって破壊された小型船の乗組員捜索』を命ずる。直ちに急行せよ。繰り返す――――」
エルーナは、少し笑みを浮かべているように見えた。しかし、その笑みはすぐに消える。
〈総指令。まもなく第1、第2船団が交戦圏に侵入します〉
「了解。現時刻より、第1、第2船団の交戦を許可。及び、両船団の指揮監督権を各船団長に委任――――桜庭!」
「はいっ、何でしょうか?」
同室にあるレーダーの目の前に座る黒髪の女性が、エルーナの方へ振り返り答える。
「CIC(戦闘指揮所)モードへ移行」
「了解。CICモード、起動します」
すると、エルーナやエルドゥイのいる薄暗い部屋が赤いライトで照らされ、アラーム音と共に部屋が展開されていく。そこは、戦闘指令室へと姿を変えた。
水上、対空、航海用のレーダー。武装管制システムが表示されるディスプレイが現れ、エルーナ達の目の前には3Dマップビジョンが表示される。
「総員、最終準備段階へ移行せよ!」
♢ ♢ ♢
「現在、小型船の残骸を確認。乗組員は未だ発見できていません」
無線のマイクに向かって報告する無精髭を生やした男。来ている服は、黒というより紺に近い。
〈了解。しばし捜索範囲を広めて捜索を継続してくれ〉
「了解」
黒くペイントされた小艇の隣には、大破している漁船が浮かんでいた。破片が水面に散らばり、オイルが浮き虹色に鈍く光っている。
「本当に生存者なんて居るんですかー?」
若い男が問う。
「k2魚雷だろ。多分生きてないよ」
2人に比べると少しふっくらとした眼鏡を掛けた男が、水平線へと向けた双眼鏡を覗き込みながら囁いた。
「おい、そんなこと言うな……」
無精髭の男は、苦笑いを浮かべながら言う。
「実際、今回の捜索だって名義上だけだろ。民間人を無差別的に殺しちまったからな、兵士としてのプライドを保ちたいんだよ上官たちは。まあ、見つければ少しは昇進できるかもな」
太った男は、不機嫌に言い放った。
「マジッすか!?」
若い男は、張り切って双眼鏡を覗きこみ、辺りを見回し始める。
「……まあ、どうせ見つからないだろうけどな」「あ」
「どうした?」
「あれって……」
若い男は、水面を指さす。
太った男は、双眼鏡でそこを見る。
「……あれは……人か?」
「た、多分そうだと思います」
その水面には、明らかにおかしい人影があった。
「すぐに向かうぞっ!」
「了解ですっ!」
太った男と若い男は、小艇を向かわせる。
「あーあ、急にやる気出しちゃって……」
無精髭を生やした男の居場所は、船の淵になってしまった。
その時、人影を見つけた場所の180度反対から、小くなった爆発音が男の耳に届いた。気付いたのは、無精髭の男のみ。
遠くに見える薄暗くなった遥か遠くの海は、戦闘が始まっている事を意味している。戦火は確実に迫っていた。
お読みいただき有難うございます。