後日談
休み明け火曜日。午後一時四十五分頃、甲崎高校。
俺、最強になった気分だ。今ならこの学校の誰にでも勝てる気がする。柔道部やレスリング部のやつらにでさえも。
隆太は今までの憂鬱とした気分とは裏腹に、溌剌として次の六時限目の授業の行われる柔道場へ向かっていた。
「それじゃ、始め」
授業開始後、準備運動を済ませたのち教科担任から合図で隆太ら男子生徒達は一斉に乱取りを始める。
「あれ？ そんなっ、いってぇぇぇっ！」
隆太は彼より体格の勝る組み手にあっさり敗退。
一本背負いを強引に食らわそうとして押し潰されてしまったわけである。
同じ頃。
「あれあれ？ おかしいな。もっと軽快に動けると思ったのに」
「私も思うように動けないよ。今までと同じだよ」
「こらっ、桃尾さん、二星さん、私語禁止やっ！」
千聡と虹子はダンスの授業で前回までと同様、見苦しい動きをしてしまった。教科担任に注意もされてしまう。
※
夕方、隆太は帰宅後。
「摩耶ちゃん、俺、めっちゃ強くなった気がしたんだけどなぁ。肩と腰と手首痛めたよ」
摩耶をゲーム内から飛び出させて不満を呟く。
「あれはゲームの世界やから。リアルには何の影響も及ぼさへんで」
摩耶はにこにこ顔で伝える。
「そんなっ！ 旅館のパンチングマシンとかでは実際に強くなったのが実感出来たのに」
「それについてもゲーム内敵キャラ退治の旅の最中っていう特殊な状況下でのみ有効やったんよ」
「じゃあさ、回復アイテムで俺の怪我も瞬時回復しないのか？」
「当ったり前やん。ゲーム内の回復アイテムは、ゲーム内の敵キャラから受けたダメージのみに有効なんよ」
「それもファンタジー要素だな。いたたたぁ」
そんな会話を弾ませていると、
「摩耶ちゃん、稼いだお金が突然全部消えちゃったよ。なんでなん？」
「学力も全然上がってなかったよ。今日あった算数のテストもいつも通り悪かった。お守り持ってったのに。ママと虹子お姉ちゃんに叱られちゃう」
彩葉と星乃が訪れて来て不満を呟いてくる。
「リアル兵庫県内に散らばった敵キャラがゲーム内に全て戻されたから、得たお金も学力も旅開始前にリセットされてん」
「そこは現実に準拠して欲しかったわ～。もうすぐ出る今期アニメのブルーレイとか買いまくる計画がぁ～」
「あたしも新作ゲームとおもちゃいーっぱい買おうと思ってたのにぃ」
「俺もものすごーく損した気分だ」
「ゲームと現実との区別が付かへんなってまわんようにと、製作者が配慮してくれたんやないかなぁ、っと思うで」
摩耶は楽しそうにこう意見したのだった。
☆
「大阪のおばちゃんのモンスター、バッグの振り回し攻撃強過ぎ。但馬グマの噛み付きや爪の引っ掻き、突進より攻撃力高いっておかしいだろ……倒したら、やはり飴ちゃんが手に入ったか」
隆太はあれ以降、摩耶が飛び出て来たデータにはこれ以上旅日記を付けさせず、別のデータで新たにゲームを進めている。
そちらにも摩耶ちゃんはいたが、飛び出てくることはなかった。学問仙人戦で苦戦しつつも兵庫編をクリアさせたあとは、電車で大阪のなんばへ向かった。
※
「竹田城跡もリアルにそっくりね」
千聡はあのゲームを観光地巡りをメインに毎日二時間以上は楽しんでいる。
九月の終わりにあの時と同じような規模の落雷と瞬停が起きたが、こちらの摩耶も飛び出てくることはなかった。それが極めて普通のことだろうけど。
※
十月の三連休初日、午前七時頃。二星宅。
「リアル徳島のマチ★アソビ、ばり楽しみや。リアル高速バスに乗れるんも」
「ワタシも今回見たいイベント多いから、めっちゃ楽しみよ。出来れば泊りがけで三日間とも見に行きたいわ～。ほな行ってくるわ」
「彩葉、それから、摩耶ちゃんも、中間テストの勉強も怠らないようにね」
「虹子お姉さん、分かっとうよ。否応なくやってくる現実思い出させんといてーな」
「ゲーム内時間ではまだ夏休みやで。というより隆太様が旅日記更新せん限り永久に夏休みや」
「ええなあ摩耶ちゃん。中間テスト間近やからマチ★アソビ見に行けんって子も、ようさんおるやろうね。ワタシ、今度の中間マジやばいんよ。特に数学と理科と英語」
「彩葉様、うちはその科目得意やで。いっしょにテスト勉強頑張ろな」
摩耶はあれ以降も頻繁にゲーム内からリアル世界に飛び出して来て、隆太達と交流している。
「彩葉、摩耶ちゃんって子と仲良くやれてるみたいね」
「うん」
ちなみに三姉妹の母は、摩耶が東京からの転校生であると思っているようだ。
（おしまいやで）
