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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
一章 反乱軍
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念願

 走っていたアレンたちはいよいよ砦が見えてきた。

 今の時間は深夜。砦の帝国兵たちもほとんどが寝ているだろう。その隙をついていよいよ反乱軍はセインを先頭に砦へと突入していった。

「て、敵襲だ!!」

 見張りをしていた帝国兵が叫ぶ。眠っていた帝国兵たちも起きだし、いまだ何が起こっているか分からない状況の中を駆け出す。砦の中は混乱して、慌しい帝国兵たちの姿が見られる。しかしさすがは帝国兵と言ったところだろうか。すぐに混乱を収め統率を直してきた。そして反乱軍を迎え討とうとする。もちろんその中にはフューリア軍の人間もいるので、セインは迂闊に攻めていくわけにもいかなかった。

「ヘイスたちが来るまで持ちこたえろ!フューリア軍のものは殺すなよ!」

 セインの掛け声とともに反乱軍の士気は上がっていく。

 アレンは戦いながら周りの状況を見る。やはり人数の差か少し押されている感じもした。セインを見ると彼は帝国の人間だけを殺しているようだった。その剣捌きは確かにすごいと言えるものでもあったが、その太刀には憎しみが込められているように思えた。容赦なく敵を斬っている姿を見て、アレンはセインが危ういと感じる。

 反対にアイラのほうを見ると、そこには少し小さな剣を使って器用に帝国兵たちを気絶させているのが分かる。王女がこれほどまでの腕を持つことに軽い驚きを覚えながらも、その姿に少しばかり好感を持った。

 そして最後にグレイを見れば、そこには槍を振り回して敵を豪快にも吹き飛ばしている姿があった。その実力もかなりのものだと分かる。この戦場で明らかに三人の力が浮いているのが分かった。しかしやはり数の差もあるのか、こちらが有利になることはない。

「貴様が反乱軍リーダーか!」

 セインの姿はとても目立っていた。それ故、セインを倒そうと多くの兵たちがセインへと向かう。

「ふざけるな!お前たちみたいな奴にこの俺が負けるわけないだろう!」

 セインは帝国兵たちを次々と斬っていく。その様はためらいなど微塵とも感じさせず、ただただ憎悪が剥き出しにされているように思えた。

 セインはかなり帝国を憎んでいる。自分の王国が滅んだのも、両親が殺されたのも、圧政に民が苦しんでいるのも全て帝国のせいだと思い、そしてそれはやがて憎悪へと変わっていった。本来は民を思いやる人物なのだが帝国に対しては決して容赦をしなかった。命乞いも許さずただただ相手を殺すのみ。帝国が憎いのは他の反乱軍も同じだったが、セインは極めてその想いが強かった。

(この男は……憎悪に囚われているのか…)

 アレンは次々と帝国兵たちを殺していくセインを見てそう思った。

 そして戦闘が開始してから十分ほどたった今、やっとヘイスとセレーヌが現れた。

「フューリアの軍よ!お前たちの人質は俺が解放した。これ以上帝国に付く意味はない!」

 その言葉に戦場は混乱しはじめた。フューリア軍の者たちは動きを止めて、呆然とヘイスを見ていた。

「それは……本当なのか!?」

「人質が解放された……?」

「俺たちがもう帝国と一緒にいる必要はないのか?」

 口々にそう言い、半ば信じられない気持ちになった。だが彼らはすぐに剣をひく。それを見ていた帝国兵たちは途端に焦りだした。

「な、何をしている!さっさと反乱軍を殺せ!」

 しかしその叫びもむなしくセインの声に消される。

「フューリアの軍よ!お前たちが帝国に付く理由はなくなったが、戦う理由が無くなったわけではない!もしもその想いが同じならば我らの軍と共に帝国軍を討て!!」

 その声を聞いたフューリア軍の人々は雄叫びのような声を上げる。さんざん苦しめてきた帝国に仕返すチャンスでもあった。一気に彼らは先ほど一緒に戦っていた帝国兵たちに攻撃を開始していた。

 その勢いに乗じて反乱軍も攻撃を再開する。帝国軍は一気に士気が落ちて、次々とその人数は減っていった。それから僅かの間で帝国軍は全滅し、辺りには帝国兵の死体が転がっているだけだ。

「あとはザラムだけだ!」

 すでに勝利は確実なものだった。生き残っているのは奥にいるザラムと数人の兵だけだろう。全員で行くこともないのでみんなにはここで待機するよう命令を出し、奥へはセイン、ヘイス、アイラ、グレイ、アレン、セレーヌの六人が行くこととなった。セインに続いて皆奥へと進む。そこでアレンがセレーヌの異変に気づいた。

「おい、大丈夫か?」

 セレーヌにしか聞こえないように近づくと、セレーヌは大分つらそうにしていた。

「これくらい大丈夫よ……」

 いつものようにセレーヌの強情な姿に呆れる。どうみても大丈夫には見えず、今にも倒れそうな姿だった。しかし休んでいろと言っても聞くような相手ではないので、どうせもうすぐ戦闘も終わることだろうし今は放っておくことにした。そして二人はそのまま先を急ぐ。







「この扉の先にザラムはいる」

 その時のセインたちは緊張と期待の気持ちがいっぱいだった。やっとサルバスタを解放することが出来るのだ。それも無理はないのだろう。覚悟を決めてセインは扉を開ける。

「死ねっ!」

 するとすぐさま両隣から二人の帝国兵が斬りかかってきた。だがそれを予想していたかのようにヘイスとグレイが前へ出て返り討ちにする。

「愚かな……これがお前のやり方か」

 セインは一歩一歩前へ進みながら奥にいるザラムを見つめる。他には誰もいないことからすでに残りはザラム一人のようだ。

「黙れ!反乱軍ごときが!」

 ザラムの顔には焦りが浮かんでいる。誰もザラムを守る人物などいない。そしてザラムを取り囲むように六人は前へと進み出る。

「よくも……今まで民を苦しめてきたな!」

 ヘイスも先ほどの衰弱しきった人質たちを見てからずっと怒っている。その想いはアイラもグレイも同じだ。

「うるさい!この私は帝国軍師団長ザラムだぞ!私に従うのは当たり前じゃないか!」

「そんな馬鹿なことが通るとでも思ってるの!?」

 ザラムの言うことにアイラは悔しく思う。こんな男にずっと民が虐げられてきたのかと思うと、それを見ていながら何も出来なかった自分も許せなかった。

「下衆めが……」

 セインは剣を構えてザラムと対峙した。そしてザラムへと走る。

「ふざけるな!お前などに殺されてたまるか!……紅蓮の炎よ!」

 さすがは一応師団長といったところだろうか。中位魔術をすぐさま詠唱省略をしてセインへと目掛けて放つ。しかしセインはそれを予想していたかのように避ける。

「なっ!」

 まさか避けられるとは思っておらずザラムは目を見開いた。すでにセインは自分の目の前に迫っていた。

「死ね!」

 セインは剣を振り、ザラムを斬る。

「うッ!」

 ザラムは膝をつき、腹を押さえる。そこからは血が止めどなく溢れ出し、もう長くは持たないだろう。その様子をセインたちは静かに見下ろした。

「くそっ!ならば!!」

 突如ザラムは起き上がったと思うと、一点を目掛けて最後の気力を振り絞った詠唱を破棄した中位魔術を放った。その魔術は風の属性で一瞬にして目標を切り刻むものだ。その速さは普通の人間が追えるようなものではない。いきなりの予想もしていなかった反撃にセインたちは咄嗟に動くことが出来なかった。そしてその魔術の標的を見ると、そこには苦しそうにして今にも倒れそうなセレーヌの姿があった。

「ッ!!」

 ヘイスは間に合わないと分かってたが、セレーヌに手を伸ばそうとする。

 セレーヌもいきなり自分に来たことに驚き、何とかしようとしたがこの体調だったのでそんな余裕がなかった。けれど自分がやられる心配はなかった。こういう時に助けてくれる信頼している仲間がいるのだ。

 






 ――一瞬時が止まったかのように思えた時間と、そのあとに起こった衝撃音。







 ヘイスがセレーヌの方を見るとそこには剣で魔術を受け止めていたアレンの姿があった。そのアレンの姿にセレーヌを除いたその場にいる誰もが驚いた。

「馬鹿な……俺でさえ反応出来なかったものを……」

 呆然と呟いたヘイスをアレンは見る。その想いはセインやグレイも同じだった。

「偶然ですよ。セレーヌが辛そうなのは分かっていたので、気をつけていましたから」

 それは本当のことでアレンはずっとセレーヌが心配だったので、傍にいるようにしていた。しかし気をつけていたからといって誰でも今の魔術に反応出来るわけではない。ザラムが魔術を発してからセレーヌに辿り着くまで一秒にも満たない。ヘイスはもし自分が注意していたとしても反応出来たかどうかは分からなかったと思う。そしてアレンの強さを垣間見た気がしてならなかった。

「く、くそ……」

 ザラムは遂に力尽き、その場に倒れた。その倒れた音に皆ハッとする。セインはザラムのほうへ寄った。そして死んでいるのを確認してから、大きな声で言い放つ。

「これでこの街サルバスタは解放された!」

 やっとの思いで念願の一つが叶ったことにアイラは静かに涙を流す。セインの声は後ろのほうにいる反乱軍たちにも聞こえたようで雄叫びが聞こえた。それは次々と伝染していき、ついには街中の人間が歓喜した。その声を聞いていたセインたちもついにやったのだと実感することになる。


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