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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
三章 紫電の盾
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ソルトレイ兄妹の戦い

 人間とも思えない素早さを持つ少年を前にして、ロッドは焦りを覚える。いきなり背後に現れ心臓や首を狙われれば、死ぬのは確実だろう。

「いつまで防戦一方なの?たまにはお兄さんから攻撃してきなよ」

 少年が短剣を手に持ちながら、ロッドから少し離れた場所に立つ。

「なぜ一気に殺さない」

「なぜって……お兄さんが拒んだんだよ?せっかく僕が一瞬で殺してあげようと思ったのに、それを防いじゃうし。だからじわじわ痛めつけてから殺すほうがお望みかなと思ったんだけど……」

 少年はロッドの急所を狙わずに、わざと他の場所を狙っていた。腕だったり、脇腹だったり、足だったり。それぞれ傷は深くは無いが、ロッドはすでに至る所に傷を負っていた。

「お前はいったい何者なんだ?」

「お兄さんって戦う人の名前知らないと済まない性質?いるよねぇ、そういう人」

「何……?」

 その馬鹿にした口調に、ロッドは苛立ちでいっぱいだった。そんなロッドをあざ笑うかのように、少年は提案をする。

「そうだね……。僕に一発でいいから傷を負わせたら、教えてあげてもいいよ」

「……それは、随分と簡単なことだな」

「ふふっ、言ったね。なら試してみなよ」

 そうして少年は短剣を仕舞い、無防備に身体を曝け出した。その様子にもロッドは激昂する。

「ふざけやがって!」

 剣を構え、ロッドが少年に向かって走り出す。そして防御もしようとしない少年に向かってロッドは剣を振るった。けれどそれは空を斬り、少年に当たってはいない。

「どこ狙ってんの?」

 後ろを振り返れば、少年は先ほどまでロッドがいた位置に立っていた。その素早い動きにロッドは翻弄される。

「……なるほどね」

 これならば少年が自信を露にしていたのも頷ける。確かにロッドは少年の動きにはついていけないだろう。攻撃しようにも当たらなければ意味がないのだ。別に名前を特別知りたいとは思わないが、当たらなければ倒すことも出来ない。ロッドは必死に何か策を考えた。

(どうすれば……あいつなら、どうする……)

 ロッドの悪い癖。八年経っても、いまだに過去の幻影を追いかけている。隣にいたけれど、実はヴィズの背中を見ていた。


 ――俺だったら構わず攻撃してるぜ

 ――それで駄目なら……逃げる

 ――よく言うだろ。押して駄目なら引いてみろってな


 そしてロッドは少年に背を向けて走り出した。そのいきなりの行動に少年は眼を見張る。

「嫌だな……。勝てないからって逃げるなんて」

 けれど逃がす気など少年には毛頭もなく、すぐにロッドを追いかけだした。その差はすぐに縮まり、少年はロッドの前に出る。

「逃げられるとでも思って……!?」

 その瞬間をロッドは狙っていた。目の前に現れた少年を、ロッドは素早く剣で斬りつけた。完全に殺すことは出来なかったが、その身体に傷を与えることには成功する。すると少年は顔を俯かせ、やがてその顔を上げた。

「ふざけやがって……。よくもそんな狡い真似を……」

「狡い真似も作戦のうちだぜ」

 ロッドは不敵に笑いながら、少年の反撃に備えて数歩下がった。けれど少年は何かが変わったように、急に高らかに笑い始めた。

「ハハッ……ハハハッ!いいねぇ……上等だ!!」

 それは狂気を帯びた顔。少年は短剣を手に取り、ロッドを見据えて言い放った。

「僕はサスケ。一応師団長でもあるよ。ま、そんなの関係ないけどね!」

 その最後の言葉と共に、サスケが動いてロッドに攻撃を仕掛ける。ロッドはその行動と、そしてその言葉に驚きを隠せなかった。

「お前みたいな子供が師団長だと……!?」

 サスケの攻撃を受け止めながら、ロッドは叫びを上げる。けれどそれに何も返さず、サスケは攻撃を繰り返す。肩や腕、急所を外して様々な場所に短剣を突き刺していた。その止まない攻撃にロッドは大きく後退する。それを逃がさないようにサスケも追いかけた。

「まずはどこから切り落とそうか。腕がいい?足がいい?それとも指?あぁ……首は最後だよ。あんたは身体中を切り刻んで、苦しみながら死ぬんだ。僕に傷を負わせた、それがあんたの罪だよ!」

 もはやサスケに正気はなく、狂気が身体中を支配していた。その速さは衰えることなく、むしろさらに上がっている。ロッドはもはや満身創痍であった。

「くっ……こんなとこで死ぬわけには……」

 膝を着きながら、ロッドは息を整える。そして決意を胸に秘め、立ち上がった。

「まだ立てるの?それとももう死にたい?殺してあげないけどね……ハハッ!」

 サスケはまたもや素早い身のこなしで動き、ロッドの背後へと移った。その気配をロッドは察知したが、防ぐ暇も避ける暇もない。だからこそその攻撃をくらう覚悟で剣を手に取った。そしてサスケが短剣をロッドに突き刺したその隙を狙って、ロッドはサスケの身体を一撃で狙うべく斬った。

「……なっ!?」

 驚きに顔を染め、サスケはその場に倒れる。ロッドの渾身の一撃はサスケの身体を深く斬り、もはや立ち上がることさえ不可能になっていた。けれどもサスケは腕を必死に立てて、立ち上がろうとする。

「ふざ……けるな……。僕は…死な……ない……死ぬ…は…ず……」

 ロッドも出血の量から立っていることも困難になり、その場に倒れこんだ。そんなロッドに止めを刺そうと、必死にサスケは身体を動かそうとする。

 そうして短剣を手に取った瞬間、サスケが動くことは二度となかった。







「ブライアン軍師団長アルバイン=ユネイトリス。参ります」

「師団長!?」

 マーブルはアルバインの階級に驚きの表情を浮かべた。アルバインは無表情に淡々と返す。

「師団長といっても、私たちの場合あってないようなもの。気になさらないで頂きたい」

 見るからに子供のアルバインにそんなことを言われれば、気にしないほうが無理であろう。そもそもマーブルはヘイスに先を行かせたが、こんな子供相手に戦えることは出来なかった。

「あの男も追いかけないといけないので、最初から本気で行きますよ」

 アルバインは走り出し、剣を振るってマーブルに攻撃する。マーブルはヘイスが進んだ階段を守るように立ち、アルバインを魔術で牽制する。

「氷河の雫よ!」

 放たれたかなりの氷の粒がアルバインの前へと飛んでいく。けれどアルバインはそれが自分を狙ったものではないと分かり、そのまま突き進んだ。その行動にマーブルはさらに魔術を放つ。

「舞い降りる氷柱よ!」

 マーブルとアルバインの間に大きな氷柱が降り注ぐ。さすがにそれにはアルバインも後ろへ後退するとマーブルは思ったが、アルバインはそのまま突っ込んできた。さらにはその氷柱をも斬り崩したのだ。そしてすぐにマーブルの目の前に到達する。

「終わりです!」

「……ッ!」

 自分の心臓を狙ったアルバインの剣をかろうじて横に避ける。それでもアルバインはマーブルをすぐに追撃した。

「凍てつく吹雪!」

 自分を狙うアルバインに、マーブルは振り向きざまに魔術を放つ。眼にも見える吹雪がアルバインを襲った。その攻撃にアルバインはやっと後ろへ下がる。

「やれば出来るじゃないですか」

「……?」

「そうやって私を狙わないと、ホントにすぐに死にますよ」

「あなた……」

 気づいていたというのか。こんな子供がそんなことを考えたり口にするのが、マーブルにとっては末恐ろしく感じた。

 そして再びアルバインが動く。マーブルは体勢を整え、何とか近づけさせないように牽制する。

「芯を象りし、氷の彫刻よ。我が前に立ち塞がれ!」

 マーブルの前に凍えた冷気が漂うと同時に、その場に一瞬で三体の氷の彫刻が現れた。何事かとアルバインは様子を見るが、特に何も起きる気配がなかったのでそのままマーブルを狙うことにする。間に立ち塞がる彫刻を斬ろうと剣を構え、そのまま一気にマーブルのもとに行こうとした時だった。突然その三体の彫刻が動いたのだ。その氷の彫刻は尖った氷を手に持ち、左右、そして正面からアルバインを突き刺そうと攻撃する。すでに攻撃態勢になっていたアルバインは咄嗟に避けることが出来ず、正面にいる彫刻を斬りながらも、左右から二つの氷がアルバインの身体を深く貫いていた。血が周囲に舞い、辺りを真っ赤に染める。出血の量も半端ではない。

「……大したものですね」

 重傷ともいえる傷を負いながらも、アルバインは無表情に立っていた。そしてマーブルを見ると、その異変にすぐに気づく。攻撃を当てた覚えもないのに、マーブルの身体から血が流れていたのだ。マーブルは傷口を押さえながら、アルバインに視線を返す。

「なるほど……」

 何かに気づいたアルバインはまたもや動き出す。マーブルはそれに身構えるが、アルバインの標的は自分ではなかった。その狙いに気づき、マーブルは瞠目する。

「これでどうでしょう」

 あっという間にアルバインは残りの二体の氷の彫刻を斬って壊したのだ。その一瞬ともいえる綺麗な動きに、マーブルは止める間もなく見惚れていた。そしてそれと同時に、急に自分の身体から血が勢いよく流れ出す。

「うっ……!」

 蹲り、床に手を着いてしまう。そんな様子を見つめて、アルバインは納得した。自らが出した氷の彫刻が壊れれば、その負荷が術者であるマーブルに行くのだろう。マーブルはあっけなく彫刻が壊れたことと、それに見破られたことに悔しさに唇を噛み締める。

「終わりです!」

 再びアルバインは走り出し、蹲るマーブルに止めを刺そうとした。それに気づいたマーブルも急いで立ち上がり、魔術を放つ。

「それは無用なものなり。封印せよ!」

 その詠唱と共にアルバインの剣を持つ腕の周りに冷気が集まった。何事かと見ていると、その腕が凍っていくのがすぐに分かる。それは右腕の剣を持つ手から肩まで全てを凍らせていた。常人であれば、その凍傷に悶えるのだろう。けれどアルバインは無視してマーブルに向かって走る。

「そんな……!!」

 特に動じた様子もないアルバインを見てマーブルは言葉を口にした。そしてアルバインがマーブルの前に立ち、剣を振り下ろす。

「貴女は優しい人ですね。わざと腕だけを凍らせたのですから」

 恐怖ともいえる感情に顔を歪めたマーブルにアルバインは剣を振るったが、その腕が凍っていたために大した傷を与えることは出来なかった。すかさずマーブルはその隙を突いて、同じ魔術を今度は左腕に放つ。

「本当に……優しい。こんな出来損ないの私に優しくするなど……。けれど、その優しさが仇となるのです」

 そして逃がさないようにマーブルを攻撃しようとした。けれどいきなりアルバインはその場に前のめりに倒れる。

「何……?」

 いきなりのことにマーブルもわけが分からず、警戒を強めてアルバインに近づいていた。するとマーブルはアルバインの異変にすぐに気がつく。

「嘘……。しっかり!しっかりしなさい!」

 マーブルはアルバインの身体を見て声を掛けるが、すでにアルバインの命は尽きていた。もともとが氷の彫刻に致命傷を負っていたのだ。それなのにアルバインは微塵も死にそうな姿を晒していなかった。

 それはまるで、心が凍っていたように。


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