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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
三章 紫電の盾
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拭えない確執

 翌朝、ザインの率いる反乱軍二百は本隊との待ち合わせの場所に向かうべく進軍を開始した。

 朝早くに起床したヘイスとザインは進軍の準備を兵に命じると共に、ザガートの返答を聞きにルベルクに向かった。自警団の建物に向かった二人が見たものは、すでに出発の準備を終えたザガートと自警団の面々である。唖然としていた二人にザガートは軽く、遅かったなの一言だけだった。

 反乱軍に入ったのはザガートとルベルクの町の自警団二十七人ほどだ。他の人たちは近隣の町から来ていたようで、とりあえずのとこ引き返すことになった。後日他の者たちと共に反乱軍の元へとやってくるらしい。そしてこのザガートと共に入った二十七人が曲者でもあった。もしかしたらその強さは今ここにいる兵を凌ぐのかもしれないのだ。しかしそれぞれが持つ武器は剣や弓であったりバラバラで、勿論馬に乗れるわけでもない。どこかおかしな部隊ともいえよう。それでいて、彼らの纏まった動きは賞賛するに値するものだった。

 合わせて二十八人行きに比べて増えたため、彼らの乗る馬は用意していなかった。それぞれ窮屈になるが、二人乗りをしてもらうしかない。そのまま何時間もゆっくりと進んでいく。全速力で駆ければ恐らく本隊よりも早く着くことも出来るだろう。それに馬にも負担がかかる。そこまで急ぐ必要もないのだ。

「いよいよ今日がグランツ城を取り返す日なのね……」

 その呟きを隣にいたロッドは耳聡く聞いていた。

「そうだな……」

 返答が返ってくるとも思っていなかったために、マーブルは驚いてロッドを見た。けれど、すぐにその顔に笑みを浮かべる。

 ダーナ城の城主がハルトス家のように、グランツ城の城主はソルトレイ家であった。大きさ自体はダーナ城よりも劣るが、グランツ城もフューリア王国にとっては欠かせない場所である。何よりあそこは二人にとって大切な思い出が眠る場所だった。ずっと取り返そうと心に願っていたことを、やっと果たせる日が近づいたのだ。二人の心の中は緊張や嬉しさが織り交じっていた。

「お前は良かったのか?あの聖騎士が軍に加わること」

「自分でもよく分からないわ。ただ一つだけ分かることは……」

「あいつはもう帰って来ない、か」

「……えぇ」

 いきなり振られた話題に、二人の間にはさっきと打って変わって沈痛な感情が訪れていた。







 ザインの部隊が進軍してから数時間の後、すでに本隊は落ち合う場所に到着していた。ここからグランツ城は肉眼ではっきりと見えるほど近く、けれど奇襲を受けないほどには離れている。ザインの部隊も到着次第、軍議が開かれ直に戦は始まるだろう。みんなが緊張した面持ちでそれぞれ休んで疲れを取っていた。

「いよいよグランツ城か……帝国軍が千に我が軍は千六百ほど。それほど苦戦することはないな」

 軍議の間のテントでザインたちが来る前に、セインはサーネルとグレイと共に先に軽く話し合っていた。しかしセインの言葉にサーネルは不安げな面持ちを浮かべる。

「それはどうでしょうか……」

「何か心配事でもあるのですか?」

 どこか引っかかるサーネルの言葉にグレイが尋ねた。それにサーネルもどこか渋りながら、口を開く。

「もしかすると……帝国軍の戦力は我々とそう変わらないかもしれませんね」

「なぜだ?」

「……まさか、魔獣……?」

「その通りです」

 その不安要素に、セインとグレイもまた不安な表情を浮かべていた。

「斥候によりますと、昨夜魔獣が二百以上ルベルクに向かったようです。その前の襲撃もいれれば魔獣が四百以上はいたということになります」

「それがグランツ城から現れたということか……」

「はい。恐らくまだ魔獣がいると考えてもいいでしょう」

「しかし何故、魔獣が帝国軍に従うというのだ」

 それはセインだけではない、アストーン大陸に生きるほとんどの人間の疑問なのだろう。今まで人間を襲っていた魔獣が、群れを成して人間に従い別の人間を襲う。その矛盾した行為に疑問を隠せるはずもなかった。

「それは分かりません。ですが一つ分かっていることもあります」

「群れを成すのは弱い魔獣か……」

 ほとんどの魔獣が<ベルド>や<ピス>といった強くも無い魔獣だった。それ以上の魔獣が人間に従っているのは余り見たこともない。だからといって、異常であることに変わりはないのだ。例え一体が弱くても、それが何百何千という勢いになれば勝てるはずもなかった。その魔獣のせいで、フューリア王国やゾディア聖王国は滅びたと言っても過言ではない。

「とにかく用心するに越したことはないでしょう」

「そうだな……」

 その時テントの外が騒がしくなったのが分かった。セインたちはすぐにザインの部隊が帰ってきたことを悟る。出迎えに行こうかと思ったが、それはすでに遅かった。テントの中にゆっくりとヘイスが入ってくる。

「やっと着いたぜ。待たせて悪かったな」

「気にするな。それよりすぐにでも軍議を始める。みんなを呼んできてくれ」

「あぁ。だがその前にちょっと報告しなきゃいけないことがあるんだよ」

「……?」

 珍しく弟のヘイスが深刻な顔をしていることに、セインは珍しいこともあるものだと思っていた。ヘイスはテントの外に出て、そこで誰かと話しているようだった。だがすぐにザインたちと見たことのない人物を連れてテントの中へと入ってくる。

「見かけない人物ですね。ヘイス様、その方は?」

 サーネルの言葉にヘイスは何て言おうかと言葉を濁していたが、すぐにその男が自ら名を名乗った。

「私は亡きゾディア聖王国の聖騎士、ザガートと申します。本日より反乱軍に加わることとなりました」

「……!?」

 セインたちは驚愕の表情をありありと浮かべる。それに見慣れたザガートや、自分たちも同じことをしたヘイスたちは苦笑を隠せざるを得ない。

「ヘイス様、これはどういうことですか!?なぜゾディアの人間を!」

 その中でも一番取り乱していたのが軍師でもあるサーネルであった。セインとグレイは思ったよりも幾分落ち着いている。

「そのままの意味だ。ザガートは反乱軍に入った。別にいいだろ兄貴?」

「……」

「私は反対ですよ!ゾディアの人間を我が軍に入れるなどとは!」

「別にあんたの意見は聞いてねぇよ」

 ヘイスはこういう所があるからサーネルが苦手でもあった。気持ちが分からないわけではないのだが、あまり好きにはなれそうにない。

「ザインたちも納得しているのか?」

「あぁ」

「セイン様、この男の実力は私が保証しましょう。何せこの私を負かした奴ですからな」

 その少し笑いながら言うザインの言葉に、セインはザガートに視線を向けた。セインもザインの実力を知っており、そのザインを負かしたというザガートの実力は確かなものなのだろう。そしてそれはすぐに、ザインの右眼を失ったのもこの男の仕業だと気がついた。

「……分かった。歓迎しよう、ザガートよ」

「正気ですか!?」

 隣で喚くサーネルを手で制しながら、セインはザガートに手を差し伸べた。ザインがいいというならば、自分に反対するものはないのだろう。いや、本当は兄のことが頭を掠めたのだが、セインはそれを無理矢理振り払っていた。

「よろしくお願いします、セイン殿」

 ザガートもセインに応えて手を出した。

「ならすぐにでも軍議を始めよう。アイラたちはまだか?」

「今こっちに向かってると思うぜ。ロウエンが呼びに言ったからな」

「分かった」

 するとタイミングを計っていたかのように、アイラがロウエンやミーアと共に入ってきた。やっと主な幹部が揃い、軍議が始められるのであろう。

「貴方がザガート殿ですか?」

 ロウエンに聞いていたのであろうか。アイラは一直線にザガートの前に立ち、挨拶をしていた。

「私はアイラと申します。これからよろしくお願いしますね」

「貴女がアイラ殿か……。噂に違わぬ美しい人だな。こちらこそよろしく頼みます」

 どんな噂があるのだろうかと、その時本気でアイラは心配になった。けれど悪い噂ではないようでホッとする。

「それでは、私はこれにて失礼いたします」

 ザガートが退室しようとしたが、その背をセインは引きとめた。何事かと思いながら振り返ると、その先の言葉にザガートは驚く。しかしそれ以上にセインの隣にいたサーネルが驚いていた。

「待ってくれ、ザガート。貴方にも今回の戦で一部隊を任せようかと思う。ここに残って欲しい」

「私に……ですか?」

「そうだ。別に出来ないことはないだろう?」

 それはセインのザガートへの最後の見極めだった。実際に部隊を率いてもらい、その眼でザガートの実力を見る。セインの眼はザガートを挑発するように、笑っていた。それに対してザガートも不敵に笑う。

「分かりました。私でいいなら引き受けましょう」

 その二人の視線の会話に周りの人間は僅かに引いていた。どこか不気味なものが漂っているようだったのだ。


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