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Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
三章 紫電の盾
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偽りの言葉

「母って……お前……」

 唐突の言葉に何を言っていいか分からず、ヘイスは言葉を必死に探す。

 慰めるべきなのか、どうしたらいいのかそれすらも分からなかった。

「……ッ…………!」

 すると突然セレーヌは顔を下にうずめて震えだした。

 ヘイスは最初泣き出したのかと思いさらに混乱してくのだが、やがてそれが勘違いなのだと分かる。

「セレーヌ……?」

「…アハッ……ハハッ…アハハッ!!」

「はぁ……?」

 ヘイスはセレーヌに手を伸ばそうとしたが、突然セレーヌは顔を上げて笑いだした。

 さっきまで悲しそうな顔をしていというのに、急な変化にヘイスはわけが分からなくなる。

「ハハッ…あんた馬鹿じゃ…ない……?何簡単に……ッハハ…信じてるのよ……アハハッ!!」

「なっ!?お前……嘘かよ!?」

「当ったり前じゃない。そんなことあるわけないでしょ。あー、笑いすぎてお腹痛いわ」

 なおもセレーヌは腹に手を当てながら必死に笑いを堪えている。その様子をヘイスは呆然としながら見ていた。

 やがて頭の中で整理がつくと同時に、怒りが沸々と湧き上がってくる。

「ふざけんな!お前……俺がどれだけ……だいたい母親って冗談にも程があるだろ!」

「あら、心配してくれたの?そりゃ悪かったわねぇ」

 セレーヌもまた茶化すように言葉を挟んできた。

 ヘイスは呆れと怒りと悲しみと様々な感情に支配され、やがて諦めたように口を閉じる。

「もういい……お前に付き合ってやった俺が馬鹿だった」

「何ですって!?誰がいつあんたに傍にいてって頼んだのよ!」

「そりゃお前が一人で可哀相だからいてやったんだよ!」

「私は一人でも十分平気よ!むしろあんたがいない方がもっと元気が出るわよ!」

「あぁ分かったよ!だったらお望み通り帰ってやるよ!勝手に一人で寂しがってな!」

 先ほどまでの雰囲気はどこへ行ったのか、いつものように二人の口論が始まり、売り言葉に買い言葉でヘイスはすぐにこの場を去っていく。


 時間が経って考えれば、騙されたことに怒りを感じているわけではない。ただ苛立ちが募っただけである。

 怒っているとしたらセレーヌにではなく、簡単に騙された自分にであろう。

 ただ先ほどのやり取りが何だか懐かしく感じ、ヘイスは知らぬ間に自然と笑みが零れていた。


「……ふぅ……」

 ヘイスが去っていった後を見ながら、セレーヌは深いため息を吐く。

 だんだんと身体の調子も良くなり、明日にはもう万全に戻っているだろう。

 きっとここに来るであろう人を待ちながら、セレーヌは静かに目を閉じた。

 そしてヘイスと入れ違いになるかのように、聞きなれた足音がやってくる。

「また言い争いしてたのか」

「……うるさいわね」

 セレーヌのことを何でも分かっているかのように、アレンはここへやってきた。

 そしてセレーヌに近づいて身体の調子を見る。特に異常は見当たらず、ホッと胸を撫で下ろした。

「部屋まで送ってくよ」

「……ありがと」

 アレンの腕に捕まってセレーヌは立ち上がる。そのままアレンの肩を借りながら、二人はゆっくりと歩き出した。

 セレーヌは歩き出しながら、自分が口にした言葉を思い出して後悔していた。

 アレンのことだから恐らくずっと聞いていたのだろう。

 それでも何も言わない優しさに、セレーヌは知らぬ間に涙が一粒流れ出ていた。







 夜が明けると、反乱軍は早朝にもメレゲン砦を後にした。

 全体の足取りは軽く、順調に行軍していく。

 すでに出発してから数日経ち、そろそろザインたちと合流する予定だった。

 セインを先頭に、そしてそれを取り囲むように反乱軍の幹部たちが並んでいる。誰も言葉を発さずに、黙々と歩いていた。けれど周囲には目を配りながら、いつ敵が襲ってきてもいいように備える。

「この辺りでザインと合流する予定です。明日は決戦ですし、今日の所は早いですが野営の準備をしましょう」

「そうだな」

 サーネルの言葉とセインの合図により、反乱軍は進軍を止めた。

 ザインの部隊も現在ここへ向かっている途中だという。グランツ城の前に合流しても良かったのだが、なるべく早くの方が良かった。たった数日一緒に進軍するだけでも、それぞれ部隊での連携は違ってくるからだ。

 それぞれが上官の指示のもと、準備のために動いている。

 準備といっても簡素なもので、ダーナ城を攻める前の時のようにテントを広げるだけだった。テントは大きいものと小さいものがあり、大きいもので十人以上、小さいものだと二人くらいまでしか入らない。

 それだけに小さいものを使えるのは幹部クラスだけだった。例外としてセインだけが小さいテントに一人だけで休むのだ。勿論そのテントの前には護衛の兵士が絶えず二人以上はついている。

「手伝うわ」

 テントを張るのに一人もたついていたミーアにアイラが声を掛けた。

 なかなか上手くいかなかったとこに助けが来てくれて、嬉しさを覚えると同時に王女に手伝わせる自分に不甲斐なさを少しだけ感じる。けれどここはアイラの好意を素直に受け取った。

「ありがとうございます、アイラ様」

「アイラでいいわよ。誰もいないんだし」

「ふふっ。そうね、アイラ」

 ミーアはアイラに言われて呼びなおした。

 セインとロウエンが親友と呼べる間柄と同じように、アイラとミーアもまた親友ともいえた。しかしミーアは礼儀正しく、絶対に公共の場ではアイラに砕けた言葉は使わなかった。そのために二人の仲がいいことはそこまで周囲には知られていない。

 アイラが何度言ってもミーアは直さないのだ。それはミーアの、自分が王族の臣下であるというけじめでもあった。

「珍しいわね。ミーアがテントを自分で張ってるなんて」

「そうね。今まで人にやってもらってばっかだったし……自分でも出来るようにならなきゃいけないと思って」

「ふーん。どうして急にそんなこと思ったの?」

「それは……」

 ミーアはそこで少しだけ口籠る。その理由を隠す必要など何もないのだけれど、それを素直に言うことに恥ずかしさがあった。

 ミーアは適当に誤魔化そうと何かを言おうとするが、その前に二人の間に別の人物が現れた。

「アイラ様、来ていらしたんですか」

「サラさん!」

 ミーアは間の悪い時に現れたサラの名を呼んだ。

 その慌てた姿に、アイラはどことなく理由を察する。

「ふーん……なるほどね」

「アイラ!べ、別にそういうわけじゃないからね!」

 まだ何も言っていないというのにミーアは必死に弁解し始めた。それではアイラの思っていることが図星だと言っているようなものだ。

 アイラはそのミーアの変化が嬉しく思い、思わず笑ってしまう。

 ここにサラが来たということは、今夜はミーアと同じテントで過ごすことになるのだろう。ミーアがサラのことを慕っているのは前から知っていたので、それにはアイラも驚くことはなかった。

 恐らくはサラに良いところを見せたいというか、情けないところを見られたくなかったのだと思う。

 すでに母親を亡くしたミーアにとって、サラの存在は大きかった。ミーア自身は別に普段から何でも人に任せていたわけではないのだが、大抵はロウエンや周りの人間たちがやってしまうのだ。

 それ故に、こいういうことは初めてでもあった。それに甘えていた部分は否定できなく、それでも進んでやり始めたミーアは変わってきてるはずだ。その良い変化をもたらしたサラは、アイラでも心から尊敬できると思える人物だった。

「それじゃ私は手伝わないほうがいいかしら」

「え、アイラ?」

 このテントを張るという作業は意外に難しく、ましてやほとんど初めてといってもいいミーアに一人で出来るはずもない。

 だからこそアイラの助けを天の助けだとも思ったミーアは、いきなりのアイラの態度の変化に驚く。そしてその理由をすぐに理解した。

「やはりお一人では難しいのでしたら私がやりますよ」

「あ…え……いや……えっ…と……サラさんは全然ゆっくりしててください!」

「ッアハ……ハハッ…」

 そのミーアの分かりやすさにアイラは必死に笑いを堪えた。そんなアイラをミーアは恨むように睨みつける。

 その仕草もまたアイラの笑いを増長させる一因だった。

「アイラ!!」

 いまだ収まりきらない笑いを耳にしていたミーアは、ついに我慢が出来ずにアイラを怒鳴りつける。それでもまだアイラは笑いが止まらず、むしろさらに大きくなっていた。ミーアはだんだん恥ずかしくなり顔が赤く染まっていく。けれどそんな二人を見たサラの言葉がアイラの笑いを止めた。

「お二人とも、とても仲がいいのですね」

 否定は出来ない言葉に、けれど今のタイミングではおかしい言葉にアイラは一瞬キョトンとした。その一瞬がアイラの笑いを止め、今度は正面きって言われたアイラが恥ずかしくなる。ミーアもまた自分たちのやり取りを見られてたことにより、さらに恥ずかしさで赤くなっていった。

 それに耐え切れなくなり、二人が何かを叫んだ時だった。それと同時に反乱軍の兵から叫び声が聞こえてきたのは。

「うぁぁっ!!」

 その叫び声に、その場にいた三人は一瞬で緊張した面持ちになる。

「大変だ!魔獣の群れが!!」

 遠くから聞こえた声の内容に驚くと同時に三人はすぐに動き始めた。

 アイラは急いで剣を持って声が聞こえた方向へと走っていく。サラとミーアもまた後を追うように走り出した。

 二人の走る速度ではアイラには追いつけない。たとえ行けたとしても攻撃手段を持たない回復魔術師には魔獣の相手は厳しいだろう。

 アイラは二人の心配は無用だと分かって、一人で声がした方に走る。

 反乱軍数百の野営地ではそこまで広くもないので、その場所にはすぐについた。

 そしてアイラはそこにあった想像よりも酷い状況に、思わず目を瞑りたくなる。

「何これ……」

 見るだけで魔獣の数が百以上いるのが分かった。そのほとんどが<ベルド>であったが、今は魔獣の種類などどうでもいい。

 数個のテントはボロボロに壊滅しており、その周辺には数十もの味方の死体があるのだ。今も魔獣の群れは野営地へと侵入し、反乱軍と戦っている。その中で一人見知った顔を見つけた。

「ジェイク……」

 今はまだ他の反乱軍の兵もそんなに来ていなかったのか、魔獣と戦っている人数は少ない。その中でジェイクは一人孤立しながら剣を振るっていた。

 その顔つきも、剣筋も、心なしか以前とは少し変わっているような気がする。

 そしてアイラもすぐに剣を抜いて魔獣の群れの中へと走り出した。


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