ダーナ城攻防戦
翌日、平原ではすでにダーナ城を攻める用意は整っていた。
百人ずつ五部隊に別れ、それぞれ指定の位置についている。
後は作戦開始を待つだけだ。
「そろそろ始めるか……」
第二部隊であるヘイスが進軍を開始する。
ついにダーナ城攻防戦が始まったのだ。
反乱軍のみんなの表情は真剣になり、一丸となって帝国軍に勝とうとしていた。
第二部隊がそろそろダーナ城へと差しかかろうとした時、ダーナ城から帝国軍が現れる。その数は三百。サーネルの予想通りの数だ。
そして反乱軍と帝国軍はぶつかり合う。
「無理はするな!倒せる敵だけ倒せ!」
ヘイスの号令のもと第二部隊は応戦する。
現れた帝国兵たちはそれほどの強さではなかった。しかしいくらこちらが精鋭だからといって、この数の差ではすぐに負けてしまうだろう。第二部隊は作戦通りに後退しながら帝国軍を誘導していく。
「何だ、逃げるのか?逃がすな!追え!」
敵の隊長らしき人物が帝国兵に向かって怒鳴り散らす。帝国兵はそれに従い、罠だと知らずにどんどん深追いをしていく。だがそれが続くとさすがに不審かと思ったのか帝国軍の隊長は不安になってきた。
「おかしい……。確か奴らの戦力は五百だったはずだ。なのに城へ攻めてきたのは百……」
この状況を怪しげに思っていると、いきなり帝国軍の左右より雄叫びが聞こえてきた。
「行け!帝国軍を包囲しろ!」
どこからか現れたロウエンとグレイの部隊が帝国軍を包囲していく。
「馬鹿な!伏兵か!?」
瞬く間に三百の帝国軍は反乱軍に囲まれてしまった。いきなりの伏兵により、指揮は乱れ統率が崩れていく。反乱軍と帝国軍には数の差はなかったが、士気があまりにも違いすぎた。少しずつ帝国軍は仲間を失っていっていった。
「マードック様!我が軍の先発隊が伏兵により混乱しています!このままでは危険です!」
マードックは玉座でその報告を聞いていた。伏兵の存在など全く考えていなかったのか信じられなかった。しかしそうも言ってられない状況なので、すぐさま援軍として後続部隊を派遣させる。
「急いであと二百を向かわせろ!生意気な反乱軍を一人も生かすな!!」
「はっ!」
兵士は言われてすぐに準備を始める。残されたマードックは策に嵌められたことにより、怒りに顔を歪めている。
「くそっ、小賢しいやつらめ!」
「隊長、出発の準備整いました!」
「よし、直ちに出発するぞ!」
後続部隊がすぐに準備を終えてダーナ城を出発した。その足取りは速く、先発部隊がやられる前に着かなければと必至で急いだ。しかし出発してすぐに何処からか炎の玉が帝国軍目掛けて飛んできた。
「何事だ!」
「わ、分かりません。いきなりあっちの方から炎が!」
兵士の言う方向を見やると、上空には炎と矢がこちらへ向かって降り注いでいた。その先にはそれを発したであろう集団が見える。
「く、残りの反乱軍か!」
「隊長!このままでは奴らの格好の的ですよ!」
隊長である男はどうすればいいか迷った。早く行かなければ仲間が危ないのだ。だからと言ってあそこにいる反乱軍を無視することも出来ない。しかし考えている時間はなかった。決断をする。
「たかだか我らの半分にも満たない数だ。先にあいつらを殲滅する!急げ!」
その号令のもと帝国軍は攻撃してきている反乱軍のもとへと走った。降り注ぐ矢と炎をかわしながらどんどん進んでいく。しかしその差は一向に縮まらなかった。
「まさかやつら逃げながら攻撃しているのか……小癪な奴らめ!全軍もっと急げ!奴らを逃がすな!」
帝国軍はその速度をさらに上げていく。そのせいか反乱軍との差は少しずつ縮まっていった。
その様子を見ていた反乱軍を指揮している者――アイラはまずいと思っていた。
「帝国軍の速度が上がっている……このままでは追いつかれるわ。もう少し時間を稼ぎたいのだけれど……」
アイラの部隊の役目は後続部隊の帝国軍を時間をかけてヘイスたちのもとへと誘導することだ。向こうの戦いがどのくらいで終わるのかが分からない以上、早くに着くのは危険すぎた。
どうすればいいか悩んでいると、今まで炎を放っていたセレーヌがアイラの前へ出てくる。
「あいつらの足を止めればいいんでしょ?だったら私にまかせなさい!」
「どうするの?」
「あいつらの前に雷を落とすわ。そうすれば少しの間だけかもしれないけど止まるはずだわ」
「分かった。お願いするわ」
この部隊には魔術師はセレーヌしかいなく、他の魔術師はほとんどロウエンの部隊に配属されていた。アイラはセレーヌを入れといて良かったと心底思う。そしてセレーヌは詠唱し始めた。
「彼方に轟きし遍く雷鳴よ、その鋭き閃光によって我は願わん。いざ、我が敵に鉄槌を下すことを!降れ、束ねし雷雲より放たれし、雷の雨よ!!」
すると空より数多もの雷が帝国軍の走る前方へと降り注いでいく。いきなりの攻撃に帝国軍は急いで止まるように命令したが、間に合わなかった前方の何人かはすでに絶命していた。
「すごい……」
意図したことなのか偶然なのか分からないが、アイラの部隊に配属されていたジェイクはセレーヌの魔術を見て思わず呟かずにはいられなかった。
作戦通りに帝国軍は一旦動きを止めた。その後すぐに動き出したが、いつ同じ魔術が来るとも分からないので慎重になり、速度は大分落ちていた。
「これなら大丈夫ね」
それを見てアイラはどうなるものかと思ったが、安心した。そのまま帝国軍とはほどよい距離を保ったまま、ヘイスたちがいるところへ向かう。
走っていたアレンはセレーヌの隣で彼女だけに聞こえるように言った。
「つぅか、あの魔術なら帝国兵に当てればかなりのダメージだったんじゃないか……?」
セレーヌはそれを言われて今初めてそのことに気づいたようだった。
「それもそうだったわ……」
「怪我人はこちらへ!回復を施します!」
ヘイスたちはすでに先発部隊を倒し、事後作業をしていた。重傷な人物を優先にミーアたち回復魔術師が治療を施している。
「アイラたちはまだか?」
「はい。もうそろそろ到着するころかと」
ヘイス、グレイ、ロウエンはアイラの部隊を待っている間被害状況を確認したり陣形を直したりといろいろと忙しかった。まだ全てが終わってないので、これをアイラたちが来る前に終わらせなければならない。
「もうすぐアイラたちが来るぞ!急いで陣形を組め!」
ほどなくしてだいたい終わった後、ヘイスの号令で反乱軍はすぐさま動く。それぞれが配置につき、あとはアイラたちを待つだけだ。すると前方にアイラの部隊が見えてきた。
「来たぞ!敵を挟み撃ちにしろ!」
アイラの部隊もヘイスのもとへと辿り着くと、すぐさま方向転換し帝国軍を迎え撃つ。帝国軍はいきなり他の反乱軍が出てきたことで、初めて踊らされていたことに気づく。
「く、くそっ!罠だったのか!」
帝国軍二百は瞬く間に反乱軍四百によってその数を減らしていく。死傷者もそれほど出ず、快勝ともいえた。
しかしサーネルの作戦だとこれからが危険な戦いになる。すぐさま四部隊を合流して、城に留まっている残りの敵を迎え撃つ準備を始めた。
「ふざけるな!先発部隊、後続部隊、共に全滅だと!?」
「はっ、はい。敵の罠に嵌り両部隊合わせて五百を失いました……」
「兵の半分が死んだと言うのか……この役立たずどもめ!」
怒りにまかせてマードックは目の前にいる伝令の兵士を斬る。兵士はあっけなく死に、それを見てマードックはいささか落ち着きを取り戻した。
「忌々しい奴らめ……こうなったら残りの五百全てを出すぞ!」
「ならばその指揮は我々がいたしましょう」
その時、扉が開き二人の男と一人の女が入ってきた。
「お前たちは……バート三兄弟か」
「残っている軍は先ほどの役立たずとは違う精鋭たちです。反乱軍などあっという間でしょう」
一番背が高く、腰に長剣をさげている見るからに剣士の男が前に進み出る。
「けれど、集まっている反乱軍は四百ほどだって言うじゃない。残りの百はどこに隠れてるんだい?」
今度は妖艶な姿をして、ローブを着こなしている魔術師の女だった。
そして最後に自分と同じ背くらいの槍を片手に持っている男が口を開く。
「さぁな。またどっかに隠れてるんだろ?あいつらを殺した後に探せばいいじゃねぇか」
「誰もいなくなった城を急襲する恐れがあります。しかし城の前で待ち構えていれば問題ないでしょう」
剣士の男が指摘する。それにマードックも頷き、彼らバート三兄弟なら問題ないと思った。安心して兵を任せることにする。
「ならばお前たちに頼んだぞ、師団長ドール、サネラ、ニアよ。奴らを血祭りに上げてこい!」
「ハッ!」
バート三兄弟は一礼して部屋から退出していく。すでに出陣の準備は整っており、後は城の前で軍を展開するだけだった。城に残ったのはマードックを守る僅か数十人の兵のみ。
しかしマードックは勝利を確信していた。あのバート三兄弟の実力を知っているからだろう。
玉座に座りながらマードックは勝利の宴を待ちわびていた。