表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
二章 ダーナ城奪還
14/71

少年兵

「お待ちしておりましたセイン様」

 魔獣の襲撃という予想外の出来事があったが、あれから反乱軍は予定通りにダーナ城を目の前とした平原へと着いた。

 すでにサーネルの軍は先に着いており、セインの軍を迎えていた。

「あぁ。ご苦労だったな、サーネル」

 サーネル=ハルトスはフューリア王国に昔から代々仕えてきたハルトス家の現当主である。

 ハルトス家はフューリア王国の貴族の中でも一番に有名で、代々その当主は王国の宰相を務めてきた。サーネルも例外に漏れず、フューリア王国がヴェルダ帝国に滅ぼされた五年前までは王国の宰相を務めていた。

 ハルトス家はかなりの貴族でもあるので、髪の色も王族の金に近い色をしている。いくら貴族といってもここまで金に近いのもあまりいないのだ。それほどハルトス家が大きいことを意味している。

 サーネルの年のころは38で、すでに亡くなった妻との間に二人の子がいた。名はロウエンとミーア。この二人の兄妹は仲がよく、そしてセインとロウエンは同じ歳ということもあってか親友同士だった。さらにミーアとセイン、ロウエンとアイラは婚約者として定められていたのだ。

 反乱軍が結成したのもこのハルトス家の存在が大きく、彼らがいなければ反乱軍はここまで来ていなかったかもしれない。サーネルは反乱軍を勝利へと導く軍師として、ロウエンは敵を倒す攻撃魔術師として、ミーアは傷ついた人々を回復する回復魔術師としてそれぞれ大きな活躍をしているのだ。セインはそんな彼らに絶大な信頼を寄せていた。

「久しぶりだな、セイン」

「セイン様……」

 サーネルと話していると、ロウエンとミーアが現れた。今となってはセインと砕けた話が出来るのは、他人ではロウエンだけだろう。そんな親友という存在をセインは大事にしていた。

「あぁ、久しぶりだな。ロウエン、ミーア」

 ミーアはセインに声を掛けられて頬を赤く染める。ミーアがセインを慕っているのは誰の目を見ても明らかだった。回りの人々はそんな彼らを見て将来いい夫婦になるなどと囃し立てていたが、実際セインはミーアのことは好きなのだが、そこに恋愛感情があるかと聞かれたら否だった。どちらかというと妹として見ているので、周りの期待を重く感じている。ロウエンはそんな二人を見て、親友と妹両方に幸せになってほしいので複雑だった。

「今夜はここで野営して明日ダーナ城に攻め入ります。とりあえず野営の準備をしましょう。それが終わったら私のテントまで来てください。明日についての作戦を話しますので」

「分かった」

 真剣な面持ちをしながらセインはうなずく。

 とりあえず一旦解散となり、セインはその後自分のテントへと戻り、軍議が始まるまで休むことにした。







 アレンはテントを張り終わると、暇を持て余していた。

 夜にはまだ早く、セレーヌと話でもしようかと思っても肝心のセレーヌが見当たらない。周りの兵士たちはそれぞれ話をしている者もいれば、自分の剣を磨いている者もいた。中には明日のために訓練をしている者もいる。アレンはそんな彼らを見てご苦労なことだと思いながら、とりあえずどこか静かで一人になれる場所を探そうとした。

 アレンは野営地から少しだけ離れたところを見つけ、そこで腰掛ける。静かで心地よく、次第に眠気がアレンを襲う。それに対抗しながらもこのまま寝てしまおうかと思っていると、遠くから足音が聞こえてきた。

「あの……!」

 声の主を見ると、あまり自分と変わらないであろう少年がいた。どこかで見たような顔だと思っていると少年はアレンに話しかける。

「この前は魔獣から助けてくれてありがとうございます」

 それを聞いて、その少年が先日魔獣の群れから襲われた時に見た一人の兵士だったことを思い出した。逃げ惑う兵士たちの中で幼いながらも一人危なっかしく剣を振るっていたのを覚えている。

「別に礼を言う必要はないって」

「いえ。貴方がいなければ死んでましたから……」

 少年は隣いいですか?と聞き、頷くと隣に腰掛けてきた。

「貴方はすごいですよね。あんなに強いし、混乱していた兵たちを一喝して治めたりして……」

「別にそんなことないさ……」

「俺、貴方を見て頑張れたんです。本当は怖くて逃げたかったけど、一人魔獣と戦っている貴方の姿を見たら俺も頑張らなくちゃって思って……」

 少年はあの時のアレンの姿を見て感動したのだ。その正直な想いをぶつけられてアレンはすこし困りながらも少年に好感を覚えた。

「そうだ!貴方の名前教えてください」

「俺か?アレンだ」

「ありがとうございます、アレンさん」

「別にアレンでいいよ」

 さん付けなどしてもらってもくすぐったいだけだ。アレンは少年に呼び捨ていいと言うが少年はなかなか聞かなかった。さらに自分がアレンより二つ年下だと知るとさらに強情を張る。意外としつこい性格のようでいくら言っても呼ぶことはなかった。

「それでお前の名前は何て言うんだ?」

「俺ですか!?俺はジェイクって言います!」

「ジェイクか……いい名前じゃん」

 そういうとジェイクは笑顔を見せる。ころころと表情を変えるジェイクを見てアレンは犬っぽいと思いながら笑みを浮かべた。

 やがてジェイクは本題に入り、何を思ったのかアレンに剣を教えてくれと言い出した。

「何で俺なんだよ。そういうのは軍の人間に教えてもらえるだろ」

「それはそうですけど……。アレンさんが魔獣と戦っているのを見て…俺すごいと思ったんです!俺とあんまし変わらないのにあんな強くて……それにアレンさんの剣筋は見たことないものでした。あれって自分で覚えたんですか?」

 多くの人たちは戦うとき剣を選ぶが、その剣筋はいろいろと違っていた。多くはフューリア王国やヴェルダ帝国など、自分の国に従った流派で覚えていくが、まれに我流という独自で創った流派もある。

 アレンの剣筋はフューリア王国やヴェルダ帝国とも違い、少なくともジェイクの知っている流派ではなかった。アレンはそのことに気づいたジェイクに才能を見出しながらも答える。

「俺の剣は教わったんだ。だから我流じゃないよ。ま、その教わった人は我流だったかもしれないけどな」

 結局はうやむやな感じに答えながらも、ジェイクはそれに納得したようだった。

「慣れている流派から別の流派へと変えるのは結構難しいんだ。だからジェイクはそのままフューリア王国の流派を学んでいった方がいい」

 それを聞くとジェイクは今度は沈んだ表情をした。

「どうしても駄目ですか……?」

「駄目なわけじゃない。いいか?俺の流派で学ぶってことはフューリア王国の流派を捨てて一からやり始めるってことだ。王国軍はみんなフューリア王国の流派だろう」

「……けど、俺はもっと強くなりたいんです!」

「祖国を捨ててでもか?」

「それは……」

 ジェイクには決められなかった。例え滅びたといえど、反乱軍の多くはみなフューリア王国を忘れてはいない。いくら強くなりたいからといって、その国を簡単に捨てられるわけがないのだ。

「諦めな」

「……」

 アレンの言葉がジェイクの胸に強く響いた。

「そんな暗い顔すんなよ。別のことなら教えてやるから」

「別のこと……?」

「あぁ。そうだな……俺が各地で旅をしていたときに見てきたことを話してやるよ。まぁ、戦いのためにはならないけどな」

「旅の話ですか……?」

 やはりというかジェイクは余りいい顔をしなかった。ジェイクの心の中には強くなりたいという気持ちが強いのだろう。旅の話なんて聞いている暇はないと思っているはずだ。けれどアレンはそれを無視して話し始めた。

「まずは……中立国家ジュールにいたときのことを話すか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ