表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mystisea~運命と絆と~  作者: ハル
二章 ダーナ城奪還
13/71

魔獣の襲来

 翌日、朝早くからサルバスタは慌しかった。

 反乱軍はすでに出発の準備を終えて、号令を待つだけである。その彼らを見送ろうと街の人々も朝から大勢の人たちが砦の近くへと押しかけていった。

 ダーナ城を攻めることをサルバスタの人たちに伝えただけで、なんと民から五十もの志願兵が現れた。おかげで反乱軍は予想していない戦力を得る。しかしそのほとんどが戦ったこともない街の人なので、実際はそれほど戦力アップとはいえなかったが、それでも増えないよりかは全然マシだ。

 やっと反乱軍が出発する時が来る。みんなはこれから起こるであろう戦に不安と期待など様々な感情でいっぱいだった。しかしその誰もが絶対に勝つという信念が窺えた。

「なんかみんなピリピリしてるわよねぇ」

 セレーヌが緊張もしていない声で一人事のように呟いた。しかしその隣にいたアレンには聞こえたようで同意しながらも目で咎める。セレーヌはそれに気にした風もなく話す。

「これから五日もかけて歩くのよね。つまんないわぁ」

「うるさいから黙って歩いてろよ」

 セレーヌの気持ちが分からないでもないが、だからといって口に出しても変わるわけもない。セレーヌもそんなことは分かっていたので文句をいいながらも次第に黙っていく。

 それから反乱軍が出発し始めてから数刻が経った後、突然前方のほうがざわつき始めた。後ろにいる人たちは何事だと思いながら前方を見やる。

「魔獣の群れだ!!」

 一人の男の悲鳴が聞こえ、その言葉に反乱軍はどよめく。

 先頭にいたセインは魔獣がいたことに気づけなかった自分を悔やみながらも、すぐに状況を判断する。魔獣の数はおよそ<ベルド>が百体に<ピス>が五十体ほどだろうか。合わせれば百五十体に達する。これほどの群れなどセインはなかなか見たことはなかった。

 恐らくは帝国が操っている魔獣の群れなのだろう。反乱軍を視界に入れると敵と認識して襲い掛かってきた。

 <ベルド>は魔獣の中でも最も弱く、本能のままに襲う魔獣だ。<ピス>も戦闘能力は弱いのだが、こいつは外見が鳥のようでかなりの素早さを持っていることが厄介だった。知能も少しばかりある。加えて<ピス>には飛行能力が備わっているので、後ろにいる部隊のほうが危険だった。精鋭部隊は前方にいて、後方はどちらかというとまだまだ新米の兵士ばかりなのだ。

 案の定、<ピス>は狙いを後方に定めて反乱軍の頭上を飛び越えながら後方の部隊を襲いにかかってきた。

「慌てるな!陣形を崩さず落ち着いて素早く倒せ!」

 セインは前方にいる精鋭部隊に対して素早く<ベルド>を倒すように命じる。早くこっちを片付けて後方の援護に向かわなければいけないのだ。内心焦りながらもそれを見せることなく次々と<ベルド>を倒していく。実際数だけで言えば前方は百と百なのだが、苦戦することは精鋭部隊にはなかった。

 しかし後方では百五十と五十という大差なのだが、兵士が混乱しすぎているので次々と襲われていた。遠すぎてセインの声も届かない。応戦しようにも空からのヒットアンドウェイ攻撃だったので、混乱している彼らには厳しかった。

「くそっ!」

 アレンは自分に向かってくる<ピス>を倒し続けているが、周りの状況に危険を感じていた。どうしたものかと思いながら考えていると、ふと近くにいる一人の兵士に目がいった。

 他の兵士のように逃げ回らないで、一人<ピス>に向かって剣を振り回していた。しかしその剣捌きもまだまだ粗が多く、見ていて危なっかしいものでいつやられるのではないかと見てるこっちが心配になってきた。

 すると<ピス>がその兵士に目をつけたのか三体同時に襲おうとしていた。アレンは咄嗟にまずいと思い兵士のもとへと駆けつける。

「何なんだよ!こいつら!」

 兵士は悪態をつきながらも一生懸命剣を振り回す。しかし急に前と後ろと横から魔獣が一気に来るのを見て避けられないと悟った。

「……ッ!!」

 来るであろう衝撃に目をつぶって備えるが、いくらたってもその衝撃は来ない。恐る恐る目をあけると、周りには<ピス>の残骸と一人の少年が剣を振り上げていた。

「あなたは……」

 この少年は確かサルバスタで入った兵だった記憶がある。先ほどからこの状況の中で<ピス>を次々と倒していたのを見ていた。それを見て自分もやる気になったのだ。しかしそれはここから少し離れた場所だったはずだった。いきなり現れた少年に兵士は戸惑う。

 アレンは目の前で戸惑っているであろう兵士をとりあえず無視して、逃げ惑っている兵士たちに向かって叫んだ。

「逃げるな!逃げればやつらの格好の餌食になるだけだ!!」

 アレンの迫力のあるその言葉で兵士たちは動きを止め、少しずつ落ち着きを取り戻していくように見えた。

「向かってくる攻撃を見極めて反撃しろ!一人で無理なら複数で一体ずつ確実に仕留めるんだ!」

 するとさっきまでの行動が嘘のように反乱軍の兵士たちは今まで逃げていたことを恥じながらも次々と魔獣へ向かっていく。

 それを見ていた先ほどの兵士は少年に対してすごい驚いていた。自分とさほど変わらないであろう少年が今まで逃げていた兵士たちを纏めてしまったのだ。驚かないほうが無理だろう。しかし今はそんな暇もなく、すぐさま自分も魔獣を倒しにかかる。

 急に今まで乱れていた反乱軍がやる気を見せてきたので<ピス>は段々と数が減っていった。残り十体ほどになったところで<ピス>は少ない知能で一矢報いようとした。彼らを奮い立たしたであろうと思われる原因であるアレンを目標としてきたのだ。

 残りの<ピス>全てがアレンへと向かって攻撃してきた。それを見ていた周りの兵士たちは口々に危ないと叫んだ。しかしアレンはそれを見ても剣を構えることなく、むしろ剣をしまってしまった。それを見た兵士たちはみんなもう駄目だと感じ、眼を瞑る者さえいた。

「早く逃げないと!」

 先ほどの兵士も叫ぶがアレンは突っ立ったまま笑っているように見える。そんなアレンを見て兵士は避けれないと悟って狂ってしまったのかと一瞬思うほどでもあった。

 すでに<ピス>が後数秒でアレンの体にその嘴が突き刺さるというところだった。

 そのとき――

「え……」

 周りにいる反乱軍はみんな驚いた。<ピス>が一瞬にして全て焼き焦げたのだ。

 その炎が放たれたであろう方向を見やると、そこには呆れたような表情をしていた女の姿があった。彼女の右手からはいまだ先ほどのなごりともいえる炎がちらついていた。

「何で私がこんなことしなきゃいけないのよ」

 別段嫌そうに思えない声で言いながらアレンへと近づいていった。

「おかげで助かったよ、セレーヌ」

 女――セレーヌが絶対に助けてくれる確信があったからこその行動だった。セレーヌもそんなことは分かっていたので特に何も言うことはなかった。しかし周りから見ればかなりの驚きだ。もしセレーヌが魔術を放っていなかったら死んでいたかもしれなかったというのに。

 その時やっと前方から精鋭部隊が現れた。

「大丈夫か!?」

 セインはそう言いながらも周りを見て、戦闘が終わったことは分かった。しかし反乱軍の兵士であろう死体も散らばっていた。その数はおよそ二十ほどだろうか。前方からも後方が混乱していたことは分かっていたので、犠牲は覚悟していのだが二十というのは予想よりも少ないほどだった。

 むしろ戦闘が終わっていたことさえ予想していなかったのだ。その点を見れば予想より被害が少なく、安心したが二十という被害は小さくもなかった。セインはやはり魔獣の群れを発見出来なかったことを悔やんだ。

 その後犠牲になった人たちを埋葬してから、遅れを取り戻すかのように反乱軍は進軍を急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ