心強い言葉
二人は立ち上がり、お互いに向かい合う。そして同時に右手を後ろに引いた。
『じゃん、けん、ぽん!』
優雨がパー。早苗がグー。優雨の勝ちだった。優雨は軽くガッツポーズし、喜びに浸る。早苗はそんな優雨をじーっと見つめた。
「よかったね」
その一言で優雨は我に返り、軽く咳払いをした。
「……よし、じゃあ左に進むか」
優雨は早苗の手を引いて歩き出す。
優雨はドアノブを握ったとき、自分の手が少し震えていることに気が付いた。
早苗が一緒だからと言って恐怖心がなくなったというわけでは無いようだ。しかし、優雨は早苗に、自分が怯えているということを悟られたくなかったのだ。
少し顔をこわばらせながら、優雨は手の震えを止めようとする。そんな優雨を見て、早苗は優雨に握られていた手を握り返す。
「大丈夫? 優雨君」
早苗は優雨の顔を覗き込む。優雨は急いで表情をほぐそうとして、早苗に笑いかけた。
「心配すんな! 大丈夫だ……」
優雨の言葉は、早苗をほっとさせた。
優雨は表情が硬く、言い方は情けなくて、歯切れが悪い。しかし、優雨は恐怖していることを隠しきれていると思っているようだ。
しかし、早苗にはお見通しだった。これまでにも似たようなことがあったから。
二人がまだ幼いころ、一緒に来ていた遊園地で、優雨と早苗は親とはぐれたことがある。その時早苗は、泣いてしまってパニック状態だった。そんな時のことだ。優雨が早苗の手を握って言った。
「早苗、大丈夫だからな。 僕が付いてるからな。 怖くないからな」
その時の優雨は涙目だったし、震えてもいた。早苗は優雨も不安で仕方ないんだろうと、思った。それでも自分を励まそうとする優雨が、とても頼もしく見えたのだ。
「変わってないな……優雨君は」
早苗は小さく呟いた。
(どんなに自分が不安でも、怖くても、優雨君は私を守ってくれる)
早苗はそう思ったのだ。
「なんか言ったか?」
優雨はきょとんとした顔で問いかける。
「なんでもないよ」
早苗は笑顔で答えた。