じゃんけん
「そういえば、お前はどうやってここに来たんだ? スタッフルームの階段から入ってきたのか?」
「ううん、私は気が付いたらあっちの部屋の入り口にいたの」
そういって早苗は優雨がさっき入ってきた扉を指さした。それで優雨は納得した。
「だから扉の前に絵の女がたまってたのか……」
優雨は深くため息をつく。そんな優雨を見て、早苗は少し笑った。優雨は少し不機嫌そうに頬を膨らませた。
「何笑ってんだよ。 大変だったんだぞ」
「いや、いつもの優雨君だなって思って。 ほっとしたの」
早苗は優雨の胸に顔を押し付けて落ち着いてしまう。恥ずかしくなった優雨は視線を泳がせた。
そして早苗を自分から引きはがす。早苗は引きはがれて、少し不機嫌そうに優雨を見る。
そしてお互いに、今はじゃれている状況じゃないことを思い出す。
この部屋にドアは四つある。
優雨が入ってきた方のドアは、女性たちが溜まっていて出られる状況じゃない。残った三つのドアを選ぶしか無いようだ。
「早苗、ほかのドア開けてみたりしたか?」
「ううん、怖くて開けられなかった」
早苗は女性三人に追いかけられていたのだ。怖くて当然だろう。とにかく先に進まないことには始まらないのだが、やみくもに進んでいいものか悩むところだ。
入ってきたドアを背にして、正面のドアか左右のドアか。ドアの先に何があるかはわからない。もしかしたらまた女性に襲われるかもしれない。そんな恐怖が優雨の頭の中を過る。
深く考えすぎてもいい案は出ないだろうと優雨は思った。ドアの先に何があるかがわからない今、考えすぎるのは無駄なことだ。いや、無駄になるだけならまだいい。
今考えすぎることは、この先にあるかどうかも分からない恐怖を想像してしまうことになる。そしてそれは警戒心を呼び起し、体の自由、柔軟な発想を奪う。
ただ無駄なだけではなく、最悪のデメリットを孕んでいるのだ。
優雨は一息ついて考えることを放棄した。この際、適当な決め方でいいだろうと思った優雨は、早苗にある提案をした。
「早苗、じゃんけんしよう」
「え、なんで?」
「俺がチョキで勝ったら右。 パーで勝ったら左。 グーで勝ったら正面に進む」
自信満々の表情で優雨は言い放った。
「自分が負ける発想はないのね」
早苗は笑いながらつぶやいた。