聞き慣れた声
優雨は勢いよく扉を閉め、その場にへたり込む。
(『同じ』っていうのは、最後に辿りつく場所が同じということだったのか)
ガンガンと扉をたたく音がするが、全身に広がる疲労感のせいか気にすることができない。
胸を押さえ、深く呼吸をする優雨。額を流れる汗を手で乱暴に拭った。疲労感と女性から逃げられた安堵感が混ざり合い、優雨の体を床に縛り付ける。
「もう、動けないな……」
全身の力が抜けていく。足からどんどん感覚が薄れていき、とうとう首から下は動かなくなった。
そして意識も遠のいていき、優雨が目を閉じようとした時だった。
「……くすん、……ここ……ど……なの……」
かすかに女の声が聞こえる。優雨の体に、一瞬にして緊張が走った。
この部屋は四角い形をしていて、今いる場所から部屋全体を見渡せる。部屋の中心あたりに丸くなって座り込んでいる影が見えた。しかし部屋が薄暗くて、はっきりとは見えない。
部屋の中心にいる女は泣いているのだろうか、かすかに震えているようにも見える。普段であれば人が困っていそうならば声をかけるところだが、今の優雨は警戒心が強くなっていて声をかける気にはならなかった。しかし、このまま動かないわけにはいかない。恐る恐る距離を詰めてみる。
「いきなり襲われたりはしないよな……?」
少しずつ姿がはっきりとしてくる。膝を抱えているのは自分と同い年くらいの女の子のようだ。しかし、なんでこんなところに女の子がいるのだろう、と優雨の中で疑う心が膨らんでいく。
ある程度女の子の近くに来たときだった。
優雨は絵の女性に追いかけられたことからきた疲労感からか、何もないところで躓いてしまった。音がたってしまい、女の子に自分の存在を気づかれてしまった。女の子は優雨の方をむき、体勢を低くする。数秒の沈黙が流れて、女の子はいきなり優雨の方向へ走り出した。
「う、嘘だろ!」
あわてた優雨は逃げようとするが、足が絡まり、その場にしりもちをついてしまう。一瞬にして目の前にまで迫った女の子。優雨は目を閉じ、顔をそむけた。襲われる、そう思ったからだ。
「ふえぇ、怖かった、怖かったよぉ……」
聞き慣れた声がした。優雨は恐る恐る目を開けてみる。すると目の前にいたのは早苗だった。
「さ、早苗!」
「うぅ、優雨君、怖かったぁ……」
早苗が力なく優雨に抱き着いた。いきなりの事で少し戸惑う優雨だったが、すぐに落ち着いた。聞きなれた早苗の声が優雨を安心させる。優雨は優しく早苗の頭を撫でて、微笑んだ。