複数の空の絵
優雨は気が遠くなるほど歩き続けた。もう自分がどれだけの時間歩いたのかもわからなくなるほどに。疲れがピークに達する頃、やっと道の終りが見えた。優雨はパッと笑顔になり、小走りになって先を急いだ。
道の終りにはドアがあった。また変なところにつながっているのか、と少し嫌気が差す。しかし、進むしか道はないのだ。優雨はドアを開けた。
ドアを開けると細い通路が二つに分かれていた。この部屋の壁にも文字が書いてある。
『同じ』
(何がだよ)
そう思いながら分かれ道の手前まで進んだ。どちらの道も先が真っ暗で見えない。優雨は思いつきで右へ進んだ。
ここに着くまでに、凄まじく怖い思いをした。考えられないようなスピードで絵の女性に追いかけられた時点で、これ以上の恐怖など無いだろうと思っていたのだ。だからか、優雨は先の見えない暗闇でも臆することなく進んだ。
何も無い通路が続く。最初は右へ曲がり、すぐに左に曲がった。そしてまた左に曲がって少し長く歩き、更に左に曲がる。しばらくまっすぐ行くと初の分かれ道。直進するか、右へ曲がるかの分かれ道だった。
(これって……まっすぐ行ったら最初の場所に戻るんじゃ……?)
そう思った優雨は、右へ曲がった。右の道は少し長い直線の通路が続いていた。少し進んだあたりで、嫌なものが視界に入る。額縁だ。
「マジかよ……。 女出てくるんじゃないだろうな」
恐る恐る近寄る優雨。絵の真横まで来て、思い切って絵を覗き込んだ。しかし、絵の中に女性の姿はなかった。ほっとして胸を撫で下ろす。しかし、足元には赤い跡があった。
(絵から出たって事か……)
赤い跡は優雨が進もうとしていた方へ続いていた。一瞬進みたくないと思ってしまった優雨だが、そんなことを言っていられる状況ではない。先に進んでいく。進んでいくうちに空の額縁が二つほどあった。
しばらく進んだあたりでドアが見えてきた。しかしそのドアの前にうごめく三つの影が。その影の正体は三人の絵の女性だった。一瞬で優雨の表情が固まる。気づかれないうちにひとまず戻ろうとした優雨だったが、体勢を崩して足音を立ててしまった。その瞬間に女性たちが振り返る。優雨の額を一筋の汗が流れた。汗はどんどん流れていき、顎に到達して地面に落ちる。その時、女性たちは一斉に優雨を追いかけ始めた。