表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/33

想起

 慌ただしく目覚まし時計が朝を告げる。激しい音が早苗の目を無理やりに覚まさせた。時刻は七時。


「ん……はぁ」


 早苗は大きく伸びをする。

 朱音が死んで数週間。早苗にやっと実感が湧いてきた。


「支度しなきゃ」


 早苗は身支度を始めた。




 学校には行くが、授業に身が入らない。朱音を失った喪失感もあるが、それとは別にもう一つ、何かを無くしたような感覚が抜けなかった。


 早苗はそれが何なのか思い出すことができないでいた。

 思い出そうとすると頭の中に靄がかかる。


 放課後、早苗は自分の席に座って考え込んでいた。


「早苗、どうかした?」


 クラスメイトが声をかけてきた。

 早苗は少し考え込んで、頬杖をつく。


「んー、自分でもなんかよくわかんないなぁ」


 早苗の煮え切らない態度にクラスメイトは首をかしげる。そして不思議そうな顔をしながら早苗を見つめた。


「私さ、朝、学校に来る時に早苗に会ったじゃん?」


「うん」


「私さ、今日は早苗一人なんだなぁって思っちゃったの。早苗いつも一人で登校してるよね。なんでだろう……」


 それを聞いて早苗の頭に何かが過る。しかしそれは靄の中に消えていく。

 思い出せそうで思い出せない。気持ちの悪い感覚がじんわりと心に広がる。


 早苗は考えることをやめて、家路についた。




 自宅では母親が待っていた。


「おかえり、早苗」


「ただいま」


 早苗の母親の顔に生気がない。朱音を失ったことの悲しみから立ち直れていないのだ。


 早苗はそんな母親を見るのが辛いと感じていた。


 最近、同じ部屋にいても言葉を交わすことが少ない。今日もいつものように、何も話すことなくリビングにいた。


 そんな時、母親が口を開いた。


「早苗、そろそろ朱音の部屋を片付けようと思うの」


 早苗は俯いたまま頷く。


「早苗にも手伝って欲しいんだけど……いいかしら?」


 母親が無理やり笑顔を作ろうとする。

 早苗はその場にいるのが辛くなって立ち上がった。


「わかった」


 早苗は、そう言い残して自分の部屋に向かう。


 朱音の部屋は早苗の部屋の隣にある。

 自室に入ろうとした早苗は、ふと朱音のドアに目をやった。




 コトコト……コトコト……。




 何かの音がする。


 朱音の部屋から、微かに物音が聞こえていた。何かが揺れるような、微かな音。


「なんだろう……」


 早苗は朱音の部屋のドアを開ける。


 朱音の部屋は何も変わっていない。家族全員がこの部屋に入ることを避け続けた結果、朱音が死んだ時から時が止まっていた。


 早苗は少し埃っぽい部屋の中を見渡してため息をつく。

 朱音との思い出が詰まったこの空間が早苗の心を締め付けた。




 コトコト……コトコト……。




 やはり何かの音がする。

 音は本棚のあたりからしていた。


「なんだろう……」


 早苗は本棚の前に立つ。絵画の本や漫画、小説などがきれいに並べられていた。その中に一冊、他の本とは形状の違うものがあった。


 早苗がそれを手に取ろうとすると、それは勢い良く本棚から飛び出して床に落下した。


 スケッチブックだった。




 ズキッ……。




 早苗の頭に鈍い痛みが走る。

 それを持ち上げ、中を見る。


『タイトル・お菓子の家』


 お菓子でできた家が描かれていた。




——寂しい世界だ。




 誰かの声が脳裏に響く。それに合わせて頭痛が増す。

 頭が何かを思い出そうとするのを拒んでいるようだった。

 早苗はページをめくっていく。


『タイトル・心の行方』


「うっ……」


 早苗の頭痛が激しくなった。脂汗が滲み、呼吸が荒くなる。

 さらにページをめくっていく。


『タイトル・宝箱の中身』


「くっ……」


 頭痛が増し、早苗はその場に膝をついた。

 スケッチブックを床に置き、頭を抱える。


 その時、開いて置かれたスケッチブックのページが勝手にめくられ始めた。

 ぱらぱらとページがめくられていき、白紙のページが開かれる。

 そのページに、じわじわと文字が浮かび始めた。




 思い出せた?




 激しい視界の揺れとめまいが早苗を襲う。早苗は耐え切れずに目を閉じた。

 これまで忘れていたことが視界いっぱいに広がっていく。


 早苗がゆっくりと目を開けると、そこは朱音の部屋ではなかった。


「お帰りなさい、お姉さん」


 人形が早苗に言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ