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目覚め

 目を覚ました優雨は、立ち上がって辺りを確認した。この部屋には大きな絵が一枚かけてあるだけ。他にはドアが一つあるだけ。


 自分はなぜここにいるのか。こんな部屋に入った覚えはない。いつこの部屋に入ったのか。そういった疑問を抱えつつ、優雨は部屋を出ようとする。


 ドアを開けようとドアノブを握った時、優雨はドアノブの異常な冷たさに驚いて手を離して一歩下がった。


 その冷たさは手を冷やすだけでは止まらず、体の内側に広がっていきそうな気持ちの悪い冷たさだった。


 ドアを見ると所々に擦れた跡がある。それを見た瞬間、優雨の頭の中に気を失う直前の記憶が浮かび上がった。


 急に閉まりだしたドア。後ろから抱きついてきた朱音。そして朱音の体から伝わってきた異常な冷たさ。


「そういえば、あの時は真っ暗だったな」


 真っ暗だったから部屋の構造がわからなかったのか、と優雨は納得した。


 朱音が抱きついてきた直後、何が起きたのか。なぜ自分は気を失っていたのか。いろんな疑問が湧いてきたが、優雨は考えるのをやめてドアを開けた。


 部屋の外はこれまで通ってきた道とは全く違った道だった。


 植物園のように様々な植物が植えられている。南国にありそうな木や、道端に咲いていそうな花など、様々な種類の植物が生い茂っていた。


 優雨は正面にできた植物の間を通って先へ進んだ。


 植えられた花が全て優雨の方を向いている。優雨が動けばそれに合わせて動く。


「そういえば、花は俺を監視してるんだったな」


 もしかしたらまた不気味な生き物が出てくるかもしれない。優雨は警戒して先へ進んでいく。


 他の部屋と違い、この部屋は湿度と温度が高かった。じっとりとした汗が額を伝う。優雨は乱暴に汗を拭って歩き続けた。


 少し進んだ辺りで、優雨は草が不自然に揺れているのを見つけた。何か得体の知れない化け物が出てくるのではないか、と、優雨は警戒する。


「くそ、ここで何かに追いかけられたら逃げ場がないな」


 この部屋には花が沢山ある。花はこの世界の住人に優雨の位置を知らせるのだ。


 草の揺れが大きくなる。優雨はその草をじっと見つめた。その時、草の中から小さな何かが飛び出した。それは優雨へ一色線に飛んでいき、優雨にくっついた。


「うわぁぁぁ!」


 優雨は急いでそれを引き剥がそうとする。


「まって、まって、お兄さん」


 くっついた何かが優雨を呼んだ。


 優雨にくっついていたのは小さな人形だった。


「お兄さん、手伝って欲しいいんだ」


 人形は優雨から飛び降りて、手招きをした。


「ついてきて!」


 人形は草をかき分けて進んでいく。優雨は黙ってそれについていった。


 人形はどんどん植物をかき分けて進んでいく。


 少し進んだところで突然視界が開けた。そこには荒野が広がっていて、地面の数カ所に割れ目ができている。


 地面の割れ目の一箇所に数個の人形が群がっていた。優雨を連れてきた人形は優雨に手招きをして、その他の人形たちの場所へと走っていく。


「つれてきた!」


「よかった、よかった!」


 人形たちは優雨を見つめて直立した、そして一斉にお辞儀をする。


「お願いです。この地面の隙間に落ちた鍵を取りたいので手伝ってください」


 優雨は二つ返事で引き受けた。


 地面の割れ目はそれほど深くなく、優雨が手を精一杯伸ばせば鍵が取れるほどの深さだった。


 難なく鍵を取り出し、優雨は人形たちに鍵を渡そうとする。しかし、小さな人形たちにとってこの鍵は少し大きすぎるようだった。


 鍵を見て、優雨はちょっと前にぬいぐるみが檻に閉じ込められていたのを思い出した。


「この鍵、もしかして檻の鍵かな?」


 優雨は人形たちに問いかける。


「そうです!」


「そうだよ!」


 人形たちはバラバラに返事をした。


 優雨は人形たちに鍵を渡す。


「ありがとう!」


 人形たちは鍵を持って移動をしようとした。しかし、鍵が大きすぎてうまく運べていない。


 それを見た優雨は人形たちが運んでいた鍵を手に取った。


「俺が持っていくよ。だから道案内をしてくれる?」


 優雨がそう言うと、人形たちは小さく跳ねながら歩き出した。


 人形たちは荒野を進んでいく。人形たちの進んでいく方向には、緑色のドアがあった。自然の中にぽつんと一つだけドアがあって、その光景はあまりにも不自然だった。


 人形たちは協力してドアを開ける。


 ドアの先には、前に通った檻がある部屋があった。


 人形たちは檻に駆け寄り、閉じ込められたぬいぐるみに話しかける。


「鍵見つけた! 見つけた!」


 人形の一人が優雨に向かって手招きをする。


 優雨は檻の前にしゃがみ込み、鍵を開けた。すると中からぬいぐるみがゆっくりと出てきた。


「お兄さん、ありがとう」


 ぬいぐるみは深々とお辞儀をする。


「あぁ、どういたしまして」


 優雨もつられてお辞儀をした。


 その時、どこからともなく数体の人形が現れた。そのうちの一つがぬいぐるみに話しかけた。


「よかった、よかった」


 そう言って人形がぬいぐるみに抱きつく。


「このお兄さんが鍵を持ってきてくれたの」


 ぬいぐるみはそう言って、優雨を指した。


 人形は優雨にお辞儀をする。


「私の親友を助けてくれてありがとう」


 優雨はお辞儀を返して微笑んだ。


 人形は優雨を見て首を傾げる。


「もしかしてお兄さんは、この世界に来たもう一人のお姉さんと知り合いかな?」


 その言葉を聞いて優雨の表情が強張った。


「そうだよ。 今そのお姉さんがどこにいるかわかるか?」


 優雨は少し焦りながら人形に問いかける。


 人形はくるりと一回転して優雨を見つめた。


「わかるよ。私はあのお姉さんに助けられたの」


 案内するからついてきて、と人形は言って歩き出した。それに続いて優雨も歩き出す。


「お兄さん!」


 優雨を呼び止める声がした。その声は檻に閉じ込められていたぬいぐるみのものだった。


「お兄さんにお礼がしたいの。お兄さんのお願いを聞いてあげる!」


 ぬいぐるみは優雨の足元へ寄ってきた。優雨はぬいぐるみを見つめて考え込む。


「そのお願い、後で聞いてもらうっていうのでいいかな?」


 優雨はぬいぐるみに言った。


 ぬいぐるみは大きく頷いて、優雨に飛びついた。


「じゃあ、お兄さんについていくね!」


 優雨は飛びついてきたぬいぐるみを肩に乗せ、案内をしてくれている人形の後を追った。

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