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プロローグ2

 翌日、朱音の葬式が行われた。葬儀場は一階建ての建物だった。優雨は早苗を連れて葬儀場に入る。早苗の母親が優雨たちの姿を見つけ、駆け寄ってきた。


「優雨君、ありがとうね。朱音も喜ぶわ」

「はい。あの、俺こういう時なんて言っていいか……」


 優雨は気まずそうに視線を泳がせる。それを見た早苗の母が、慌てたように小さく手を振った。

「あ、変に気を使わないでいいのよ! あ、ほかの人を待たせてるから、ごめんね」


 そういうと早苗の母は立ち去った。


 優雨はとりあえず、用意された椅子に座った。豪華に並べられた花の中心に、笑顔の朱音の写真が飾られている。優雨がぼーっと写真に見とれていると、早苗がスケッチブックを持ってきた。


「これね、朱音が使ってたスケッチブックなの。朱音ってば、このスケッチブック誰にも見せなかったんだよ」

「そうだったのか。見てもいいかな?」

「うん」


 優雨はスケッチブックを受け取り、最初のページを開いた。


『タイトル・お菓子の国』


 絵の題名なのだろう。そのページには飴やクッキー、チョコレートなどですべてができている風景が描かれていた。パッと見ではメルヘンチックでいい世界だなと思う絵だ。しかし、優雨はそう思わなかった。


「寂しい世界だ」


 描かれていた世界には人がいない。別に書かなかっただけだろう。普通はそう思う。しかし、優雨は違った。


「前にな、朱音が言ってたんだ」


『私ね、ただ風景を描いているだけの絵は寂しいだけの絵に見えちゃうの』


 早苗は首をかしげた。なぜなら、朱音は早苗にそういうことを言った事がなかったから。特別に気を許していた優雨にだけ言っていたのだろう。優雨は話を続けた。


「朱音は俺の前で絵を描くとき、絶対に自分と一緒にいる俺を描いてたんだ。……たぶん、朱音は自分の今の状況や、気持ちを絵に表していたんだと思う」


 絵に誰もいないということは、自分はひとりぼっちだったと思っていたということなのだろうか。

 話しながらスケッチブックのページをめくっていく優雨。次のページに描いてあった絵には、人の姿があった。しかし、いい様子ではない。


『タイトル・心の行方』


 大きな絵が飾ってある部屋で、人が壁に寄りかかってぐったりとしている。胸にはハート型の黒い穴が開いていて、近くにいる少女が赤いハートを持っていた。まるでその少女が人の胸から赤いハートを取り出したように見える。横で見ていた早苗が、優雨の服の袖をつかんで囁いた。


「なんか怖いね」

「そうだな」


 続けてページをめくっていく。どの絵にも人の姿はほとんどなく、不気味なものが多かった。その中に一つ、明るくてきれいな絵があった。


『タイトル・宝箱の中身』


 ぬいぐるみと行進する少女が描かれている。少女はうしろを気にしながらも、人形たちに連れられて光の中に歩いて行っていた。彼女が歩いてきたであろう方向には、不気味な黒い扉が半開きになっている。扉の中から黒い煙のようなものが溢れていた。


 早苗と優雨がスケッチブックを見ている間に葬儀の準備が整ったようだ。早苗の母が優雨たちを呼びに来た。


「そろそろ始まるから、スケッチブックを置いてきなさい」


 早苗は黙ってスケッチブックを持って席を離れた。そして間もなく葬儀は始まった。






 葬儀は進み、一区切りついて葬式場にいた人たちが席を立ち始めた。優雨も席を立ち、軽く背伸びをする。最後に朱音の顔を見ておこうと、優雨は棺桶に近づいた。


 朱音は車にはねられた衝撃で、下半身の骨のほとんどが砕けてしまったらしい。


(痛かっただろうな、なんで朱音がこんなことに……)


 優雨は朱音の顔を覗き込んだ。朱音はただ眠っているだけのように安らかな顔をしていた。起き上がって、これまでみたいに抱き着いてきてくれないかな。優雨はそんなことを考えながら優しく朱音の顔を撫でた。その時だった。


「おにぃちゃん」


 はっきりと聞こえた。朱音が優雨を呼ぶ声が。優雨は急いで振り返り、辺りを見渡す。しかし、どこにも朱音の姿はない。それどころか。


「なんで、誰もいないんだ……?」


 人が一人もいなくなっていたのだ。さっきまでいた人たちが一人残らず。優雨は不安になって振り返り、棺桶の中をのぞいた。


 優雨の表情が一瞬にして固まった。棺桶の中に朱音の姿がなかったのだ。


「ウソだろ……」


 優雨は何が起こったかわからず、とりあえず外に出ることにした。自分が入ってきた入口に向かい、ドアを開けようとする。


「あれ……開かない」


 どんなに押してもドアはびくともしなかった。ドアには鍵がかかっているわけではない。それなのに、少しも動く気配がなかった。そんな時、優雨の手が少しだけ震えだす。少しずつ怖くなってきた優雨は、とにかく人を探すことにした。


 優雨は一般の人が入れる場所はすべて探した。すべての休憩室やトイレまで。しかし誰の姿もなかった。そして優雨は更に、窓が開かないことに気が付く。


「なんでだよ……」


 あとはスタッフ専用の部屋しか探していない場所は無い。一瞬、入ったら怒られるかなと思ったが、「それどころではない」とつぶやいて中に入った。


 スタッフルームはあまり物がなく、すっきりとしていた。この部屋にも誰の姿もない。そんな中、部屋の奥にほかの部屋とは明らかに違う空気を放っている場所があった。そこは心なしかほかの場所より暗い。


「なんだ……ここ」


 そこには、下が見えないほど暗い下り階段があった。身がすくむほど不気味な雰囲気を放っている。優雨の膝が小刻みに震えてきた。下の階に行くのを体が拒否しているようだ。


「行くしかないよな……。でも、おかしいよな」


 たしかこの建物は一階建てだったはず。建物内の案内図には地下室は存在しなかった。優雨はこの先には進みたくないと思ったが、ここ以外に進む道はない。


 優雨はゆっくりと階段を下って行った。優雨の姿は、仄暗ほのぐらい闇の中へ消えていった。


次のお話から、優雨が不思議な世界へ迷い込んでいきます。ここから先にグロテスクな描写が含まれてきますのでご注意ください。

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