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蝕まれだした心

 早苗の気持ちは良い方向に変わったが、今の状況はよくないままだ。


 今のところ、得体のしれない生き物は一体しか確認できていないが、まだほかにもいる可能性がある。


 辺りは暗く、視界が悪い。それに加えて夜霧のようなものまで漂い始め、さらに身動きが取れなくなってくる。


 さっきは簡単に確認できていた一つの影も、今になってはよく注意しなければ見失ってしまいそうだ。






 優雨はかなり焦っていた。早苗がいてくれるだけでずいぶんと冷静さを保っていられるが、実はかなりぎりぎりの精神状態だった。





 今は一つの影しか見えていない。しかし周りにはもっと多くの得体のしれないものがいるかもしれない。


 自分がその得体のしれないものに囲まれているような感覚に囚われ、優雨は額に汗をにじませる。





 優雨は乱暴に額の汗を拭った。早苗がいることで判断は冷静にできるが、ひどいプレッシャーと恐怖心が優雨の心を蝕んでいく。





 先ほどからドアの近くを徘徊している影が、優雨たちの方へ近づいてきている。


 その影の動きに集中し、優雨は周りを見ることを忘れていた。


 そんな時、後方を見ていた早苗が優雨の袖を軽く引っ張った。





「優雨君、あっちから何か来る」





 優雨は急いで振り返った。その方向には二つの影が見える。


 今、優雨たちは三体の何かに囲まれているようだ。そのすべてが優雨たちの方向へ向かってきている。




 もしかしたら影の主には自分たちの姿が見えているのかもしれない。そう思い始めた優雨は影の主が本当に自分たちの姿が見えているのかを確認することにした。




「よし、早苗はじっとしててくれ」




 優雨は足元に転がっていた小石を遠くへ投げた。小石は何かに当たり、音を立てる。その瞬間、影の主の動きが止まった。そして音の方向へ歩いていく。




「あいつら、俺たちの姿が見えてたわけじゃないのか」




 優雨は息をつき、少し安心する。しかし、その安心はすぐにかき消された。




 影の主がまた優雨たちの方向へ向かってきている。さっきまでは音のした方へ向かっていたのに、いつの間にか進行方向を変えているのだ。だんだんとわけがわからなくなってきた優雨は後ずさりする。その時だった。




 ピィィィィ!




 足元から悲鳴のような声がした。驚いて足元を見ると、そこには花があった。それで優雨は影の主たちがなぜこちらに向かっていたかわかった。




「こいつのせいか!」




 優雨は思い出した。




『花たちはあなたを見ている。花たちはみんなつながっている。花たちはこの世界の住人とつながっている。』




 花が自分たちの位置を影の主に伝えていたのだ。花が近くにある限り、優雨たちは逃げることができない。




 優雨は早苗の手を取り、走り出した。


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