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心の支え

 この部屋は優雨が予想していたよりも広く、五分ほど歩いたにも関わらず道が続いていた。


 優雨と早苗の顔に疲労が見え始める。足場があまり良くないからか、無駄に体力を消費しているのではないかと優雨は思い始めていた。 

 

 しかし、今そんなことを考えたところでほかに道があるわけでもない。我慢して進むしかない。





 足の疲労が全身へと広がりだし、だんだんと体を動かすのが億劫になってくる。深くため息をつきながら優雨は前を見た。すると、すこし遠くに大きな箱があるのが見えた。





「ん? なんかあるぞ……」





 早苗もその箱をみつけ、目を細めた。





 二人は小走りになって箱に近づく。そして箱の目の前に立った。





「開けるか……。 早苗、ちょっとさがってろ」





「う、うん」





 優雨は恐る恐る箱を開けた。中から変な生き物が飛び出してくるのではないか。優雨は少しビクビクしていたが、開けてみても何も飛び出してこなかった。箱の中には鍵が一つだけ入っているだけ。





 優雨は鍵を取り、箱を閉めようとした。その時、早苗が箱のふたを手で止めた。





「どうした?」





「なにか書いてあるよ」





 優雨は早苗に言われてふたの裏を見る。そこには文字が刻んであった。






『夜は私たちの時間。 夜の闇が私たちを呼び寄せる。 闇の中では誰も逃げられない。』






「夜って言っても、ここは室内だから関係ないよね?」





 早苗は首をかしげながら言った。しかし、優雨は青ざめながら早苗の手をつかんだ。





「この部屋での夜ってことだよ! もう時間がない! 走るぞ!」





 優雨は早苗を連れて走り出した。箱の場所にたどり着くまでにかなり時間を使ってしまったせいで、太陽は沈みかけている。


 早くこの部屋から脱出しなければ、絵の女性やまだ見たことがない恐ろしい生き物が出てきてしまうかもしれない。優雨は必死になって走った。





 やっと入ってきたドアが見えてきたが、少し遅かった。太陽は沈み、あたりは闇に包まれる。周囲の草が風に揺れて騒がしくなった。そして何かの気配がする。

 

 障害物の無い今の場所にじっとしておくのは危険すぎると判断した優雨は、とにかくドアに向かうことにした。暗くて見通しが悪い道を一心不乱に駆ける。





 やっとのことでドアの近くまで来た優雨たち。少しほっとしながらドアに近づこうとした時だった。早苗が優雨の手を引っ張って止める。





「何かいるよ」





 早苗の視線の先をよく見ると、人型の影があった。それは何か長いものを引きずってドアの近くを移動している。それに合わせて何かの音もしていた。


 よく聞くと、金属が引きずられるような音がかすかにしていた。影の形からは判断しづらいが、影の先端部分が大きく見えるから斧のような物だろう。


 影の主がこの部屋の住人なら、見つかれば襲われる。うかつに動けなくなってしまった。




 それでも何もない場所に立ち止まったままなのは危険すぎる。隠れる場所を探さなければ、見つかるのは時間の問題だ。近くに大きい岩があるのを見つけ、陰に隠れる。




 とりあえず一安心、といったところだろうか。優雨と早苗は息を整える。優雨はあたりを確認しながら、この状況の打開策を考えた。


 どうやればあの影の主をどかすことができるか、ほかに化け物がいるのではないか、いろんな可能性が頭を過って考えが無造作に絡まり合う。




 いろいろ深く考えすぎなのだろうか。優雨は頭を抱えて焦り始める。今は自分一人の身を守るだけじゃいけない。早苗を守りながら進むことも考えなければならない。無責任な考えで行動するわけにはいかないのだ。それがプレッシャーになって優雨にのしかかる。




 そんな中、一人で焦っている優雨を見て、早苗は少し申し訳なく思っていた。自分が優雨の足を引っ張っているのではないかと思っているのだ。


 直接優雨が足手まといだと言ってきたわけではない。優雨はそういうことを言わない人だからだ。でも、自分がいなければ優雨はもっと身軽に動けるだろうし、助かる可能性も高いと早苗は思った。そんな気持ちが心を支配し、だんだんと自虐的になってしまう。




 自分の心に押し潰されそうになる早苗。自然と表情も暗くなり、下を向いてしまう。やっぱり自分はいないほうがいいのではないだろうか、早苗がそう思った時だった。




「早苗、お前がいてくれて助かったよ」




「え?」




 優雨がいきなり、早苗の頭をなでながら言った。そして早苗に笑顔を向ける。




「もしお前がいなかったら、俺は無謀な選択ばかりをして、自分の命を危険にさらしてしまっていたかもしれない。お前がいてくれるから、こうやって冷静に考えることができるんだ」




 優雨の笑顔は頼りないものだった。今の状況があまりいいものではないからか、少しひきつっているのだ。でもその笑顔は早苗の心を温かくした。今は早苗の顔から先ほどまでの暗い表情がなくなっている。無意識ではあったが、優雨は早苗の心を救った。




(優雨君なら今の状況を何とかしてくれる)




 早苗にとって今の優雨は、心の支えになっていた。


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