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第八話 なぜ私を愛した??

彼女といるとき、私は常に思っていたことがあった。


なぜ、彼女は私を選んだのだろうか、と言う事である。


実際に彼女に聞いたわけではないので、どこまで信憑性のある話なのかは定かではないが、彼女は私に告白するまで、相当な回数の告白を受けたらしい。


一説では、百人を突破したと言う話もある。


さすがに、私もそれを信用するような事はしなかったが、この高校に彼女のことを好きな生徒が百人いる、と言われれば、私はそれを信用しただろう。


それほど、彼女は人気があり、まさしく一種のアイドルといっても良かった。


そんな彼女はいったい私のどこを好きになったのだろうか、それが不思議で不思議でたまらなかった。


実際、私は告白を受けた時点では、彼女のことを好きではなかった。


いや、そもそも恋愛と言うものすらどういうものか知らなかった。


言葉にすれば、簡単だった。


愛しく思う気持ちを持つ事。


それが恋する気持ちである。


けれど、それならば愛しく思う気持ちとはいったいどのような気持ちを表すのだろう。


それすら分からなかったのだ。だから、あの告白を受け入れる事を考えたのだ。


その結果として、私は彼女と一緒にいることで、恋愛と言うものを少しだけ知る事ができた。


どのような気持ちが、いとおしいと言うのか、どのような気持ちが、愛していると言うのか、それをほんの少しだけ感じることができた。


だから、よりいっそう彼女を愛しく思った。


今まで知らなかった思いを教えてくれたからこそ、私は彼女のことを好きだと思えた。


けれど、私は彼女にいったい何を与える事ができたのだろう。


残念ながら、私にはそう思えなかった。


もし私の気持ちの起こり方と彼女が同様ならば、彼女は私のことを愛しく思えるはずがない。


ならば、彼女は私のいったいどこを愛しく思ったのだろう。


それが分からなかった。


だから思い切って一度聞いたことがあったのだが


「あなたの優しさが自然だったから」


わけの分からない答えを返された。


私は、自然な優しさなんてないと思っていたからである。


優しさなんてものは結局自己満足か自己陶酔でしかない。


物質的な便益ではなく、精神的なものを求める行為でしかない。


私には、そう思えて仕方なかった。


そのため、私は彼女の答えに納得しなかった。


これと似たような事を言ったのも覚えている。


けれど、彼女はそんな私を見て、本当に幸せそうな笑みを浮かべると


「だからこそ、君の優しさは自然なのかもしれないね。どこかで割り切っているから」


とても鋭い切り口で返された。


そんな笑顔で言う言葉なんかではないと思った。


そんなことはもっと悲しそうな顔つきになるはずだ。


私の言っている事は、あまりにも悲観的なものなのだから。


だから、それを肯定するのならば、それにあった顔をしなければならないはずなのだ。


なのに、彼女の顔は晴れやかなのだ。


まるで、私の心の奥底を覗き込んでいるかのように思えてくる。


そして、私の心内全てを読んだ上で、答えているようにしか思えない。


そんな彼女が少し私は恐ろしくもあった。


自分の心を読まれるほど、恐ろしいものはきっとない。


けれど、どこかでそれを望んでもいた。


もしかすると、私自身を、本当の私を理解してもらいたがっていたのかもしれない。


私と言うものを理解した上で、答えて欲しかったのかもしれない。


おそらく、私は彼女のことが本当に愛しくて愛しくて仕方がなかったのだろう。


好きな人には自分の全てを見て欲しいのだろう。


以前、私が読んでいた小説にも書いてあったことだ。


どんなにつまらない事でもいい。


好きな人には、知ってもらいたいのだ。


そして、例え納得ができなかったとしても、その時の心を理解して欲しいのだ。


けれど、それは傍から見れば滑稽なものでしかない。


狂気染みたものでしかないのである。


いや、もしかすると、恋愛自体狂気じみているのかもしれない。


心のどこかで眠っているものが呼び起こされるのだから、そうなってしまうと考えてもおかしくはない。


実際にストーカーだってそうだろう。


愛しているからこそ行う行為であり、そうでなければそんな事をしようなどと露とも思わないはずである。


もっと、身近な話ですれば、お互い縛りたいと思い、縛られたいとも思うことである。


誰かを束縛し、誰かに束縛される事で、自分の存在の光を強めようとする。


私にはそれ自体も狂気染みているとしか思えない。


けれど、私はその心を、否定することはできなかった。


日に日に自分が変わっていっていたことが、よく分かった。


おそらく少しずつながらも彼女に看過されて行ったのだろうが、それでも私はその生活に身を任せていた。


その狂気染みた世界が心の拠り所にもなったからである。


常に物事には表と裏がある。


何事にでも良い面と悪い面があるのである。


そして私にとって、恋愛と言うものは悪い面では、狂気の只中で生きるきっかけであり、良い面では心の拠り所を手にするきっかけでもあったのである。


私は、その狂気が生み出す虚ろな世界で生きてきた。


そして、できることならずっとそうしていたかった。


けれど、やはり何事にも永遠なんてものはない。


優しすぎる時間はすぐに過ぎて消えていく。


今、こうしてここにいるのが、その証である。



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