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第五話 彼女との初デートと付き合い方

彼女と初めて行ったデートは、映画だった。


付き合い始めてしばらくたってからのことだったのだが、私自身デートどころか、友人とどこか出かけることすらほとんどなかった。


そのため、基本的に彼女に任せたるような形になり、そうなってしまったのである。


その時の私には、今一付き合うということが理解できていなかったからなのかもしれないが、結局私は最初のうちは彼女に全てまかせっきりだったという事実には変わりない。


そういうわけで、彼女が決めたデートは映画だったのだが、何を見るのかで、まず手間取った。


彼女は恋人らしくラブロマンスを見たかったらしいのだが、はっきり言って、私はそんなものにまったく興味がなかった。


いや、あまり好きにはなれないといったほうが正しいか。


以前、一度だけ、大作と呼ばれたラブロマンスを見たことがあった。


それは結構楽しむ事はできたのだが、また見たいとは思えなかった。


自分には、全く合わない種類のジャンルだとすぐに分かったからである。


だから、どうしてもそれだけは止めてくれと頼んだのだ。


結局、彼女のほうが折れてくれたので事なきを得たのだが、その後が大変だった。


見たかった映画が見れなかったため、鬱憤がたまっていたのだろうが、買い物にまで付き合わされる羽目になった。


妹の付き添いで、ある程度そういうものになれてはいたのだが、それでも最後の方が辛かった。


それこそ、顔に出さなかった自分を褒めてやりたいぐらいである。


けれど、それもまあ、それはそれでよかったのではないかと思う。


帰り際の彼女の笑顔は本当に輝いていた。


それだけ今日この時間が楽しかったのだろう。


それだけで十分私は報われた気分になった。


自分でも人を楽しませる事ができると言うことが分かったからである。


けれど、そんな陽気な気分も次の日にいつの間にか飛んでいってしまった。


いつもどおりに、いつもの時刻に教室に入ると、クラス中から視線を浴びた。


いったい何の事だろうかと不思議に思いもしたが、考えてみたところで、無意味でしかないかと決着をつけると、席に着き、かばんの中身を机の中に放り込む。


とは言っても、私も置き勉派に属していたので、持って帰っていたものと言えば、宿題ぐらいである。


そういうところは、どこか抜けている私なのである。


全ての作業を終えると、ようやく私は途中まで読んでいる文庫本を開く。


最近お気に入りの作家の小説である。


中身は、恋愛ものである。


不思議と映画ではそんなものを見る気は全く起きないのに、小説となると話が変わってしまう。


そんな自分がどこか矛盾しているようで、おかしく思うが、何となく納得もしている。


たぶん、小説では、一つ一つの表現に深みを感じ取る事ができるからなのだろう。


現に本には映像にはない面白みがある。


それに気がついてしまった今では、もう抜け出せないところにまできてもいる。


そんな事を考えながらも本を読み続け、もう少しで半分まで到達するかしないかのところで、不意にクラスメイトに話しかけられた。


何か用でもあるのだろうかと思って、声をかけてきた人間の方を見てみて驚いた。


確かに傍にいるのは一人なのだが、確実に集から視線がここに集まっていることが用意に予測がつく。


果たして、ここまで周囲の視線を集める用とはいったい何なのだろうか。


そう思って思索に耽りながら、相手の顔を見る。


どうやら、向こうも逡巡しているようで、すっぱりとは切り出してこない。


できれば早めに済ましてしまいたいのだけれども、向こうから話を振ってきた以上、私の方から何か言うわけにも


いかず、ただ待つ事しかできない。


内心で少々いらいらし始めるころにようやく口を開いた。


けれど、それはまさしく青天の霹靂だった。


目の前にいる男は、私が彼女と付き合っているのか、と訪ねてきたのである。





実は、私と彼女が付き合っていることは、内密の事だった。


彼女の方は、気心の知れる友人に関してのみ言っていたのだが、私は誰にも言っていない。


公表すれば、どうなるかぐらいお互い容易に予測できたからである。


一瞬、私の脳裏に否定する言葉が頭の中に浮かんできた。


自分の保身のための言葉だった。


認めれば、自分の身が危うくなるのは既に分かりきっている事である。


真実、クラスの男子の目はぎらついている。


おそらくは嫉妬から来るものなのだろうが、はっきり言って精神的によろしいものではない。


けれど、私は認めることにした。


自分の保身の結果として、彼女を傷つける事の方が、よっぽど怖かった。


そう彼女の告白を受け入れた時点で、既に私は決心していたのだ。


自分の身がどうなったところで、どうでもいいということは。


もちろん、私が認めた瞬間に、クラスの男子から顰蹙を買った。


はっきりと分かる妬みや嫉みの目で私を見ていた。


けれど、助かった事に誰も実力行使をしなかった。


それ以前に、以前と同じ対応しか、しなかった。


それこそ、時々嫉妬のこもった目で見ること意外は。


その結果として、私と彼女は学校でも堂々とする事になった。


正直言って、私はいやだったのだが、彼女がどうしてもと言うので、折れざるを得なかった。


別に、四六時中べたべたするわけではなく、一緒に登下校をしたり、一緒に弁当を食べたり、その程度の事だったのだ、


断りようがなかったというのが、正しい。


まあ、それなら以前はどのような付き合い方をしていたのか、となると、正直普通なら考えられない付き合い方をしていたと答えるしかない。


実際、彼女と私は確かに付き合っていたが、一緒にいたことはほとんどない。


あえて挙げるとするならば、図書委員の仕事のときぐらいである。


しかもその時でさえも,まともに甘い言葉の一つも唱えなかった。


唯一、まともに会話をしたときと言えば、メールぐらいである。


彼女と付き合い始めた翌日に買わされたのである。


私としては、不必要だと思ったのだが、彼女が普段まともに一緒にいられないならせめて、と言うことなので、買うことにしたのだ。


その際、両親に難色を示されたが、無駄遣いはしないということで決着をつけた。


その携帯で、夜にメールのやり取りをしていただけである。


それが、それから以降は、二人でいることが多くなった。


まともに恋人らしい会話なんてものはしなかった。


けれども、それでも彼女にしてみれば、十分だったみたいである。


私が見た彼女の顔はいつも輝いていたから。


たとえ、今はもうそうではなくなってしまったのだろうが。




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