第四話 思い出されるのは
その傘のおかげで私と彼女は、比較的仲が良くなった。
とは言っても、単に図書室で仕事をする際少々話をする程度だけの事で、それ以上のことはなかった。
そんな事をしようと言う考えすら起こらなかったのだから。
そっと岩肌に背中を預け、天井を見上げる。
雪が降っているのだろう、隙間からちらほら入ってきている。
けれど、岩肌の天井のためで、それを見ることはできない。
少々、失敗したかなとも思ったが、あえて考えなかった事にする。
今更、そんな事を言ったところで無意味でしかない。
そういえば、傘を貸した次の日、ちらほらと彼女の姿を見かけたような気がする。
ただ、そのときは自分になど全く関係のないことだと決め付けていたので、気にも留めなかった。
けれど、本当は彼女は借りた傘を早速私に返したくて、私のクラスにまできていたらしい。
ただ、残念な事に私はそれに気付かなかった。
そして、結局返してもらったのは、放課後になってからのことで、その際はその事は一言も言わなかった。
このときの真実を聞いたのは、もっとあとのことで、付き合い始めてからしばらくのときであった。
不思議なものだ。
こうして思い出をめでていると、不思議と心が穏やかになる。
私自身こんな事は本当に久しぶりだ。
確かに彼女といるときは幸せだった。
それだけはまず間違いないことである。
けれど、それと同時にどこか不安もあった。
この幸せはいったいいつまで続くのであろうか、と。
私は知っている。
いつまでも、永久にあり続けるものなど、この世の中には存在しないと言う事を。
それは、人間に死と言う物がある限り。
それは、世界が有限である限り。
だから、私は安穏とした生活の中で不安を抱えながら過ごしてきた。
それはある種混沌としたものであった。
自分を映す鏡のように思えて。