第三十三話 彼女の友達と
それからの私の生活は全くと言うほど活力がなかった。
母親からは事あるごとになじられ、妹たちにもあれやこれやと文句を言われた。
特に、彼女と別れたことをポロリと言えば、もう散々な言われようだった。
まあ、それも仕方がない、私が悪いのだから、それら全ては甘んじて受けるつもりだ。
そうやって、ぼんやりと一日を過ごしていたんだけど、呼び出しをくらってしまった。
相手は、彼女の友達だった。
たぶん、理由はいきなり別れたことだろう。
案の定、待ち合わせ場所の喫茶店に着くと同時に三人からの強烈な睨みつける視線と言う盛大な歓迎だった。
私は、内心でため息をつきつつ、彼女たちの応対に専念する。
まあ、それが気に食わないのだと思うけど、さらに視線を強烈になるけど、もう既に母親からので、なれてしまっている分、全く通用しない。
と言うか、彼女たちはなんだか勝手にヒートアップしている。
それほどまで、彼女のことが大切なんだろう。
やはり、彼女の人の見る目は良い。
男を見る目は余りよくないみたいだけど。
「ねえ、聞いてるの」
そんな彼女たちを尻目にぼんやりと考え込んでいたんだけど、今度はそれに噛み付かれた。
まあ、たとえ私がどんな態度を取ったとしても、気に食わずそうしてくるとは思うけど。
「て言うか、大体、何で泣かせるわけ?男して最低でしょう」
そんな半ば諦め気味の私の内心など無視するように、痛烈な言葉を投げかけてくる。
どうでもいいけど、この話、実はもう三回目。
さすがに、もうこれ以上は付き合ってはいられないと思った私は、内心でため息をつくと
「なら、そんな最低な奴に、どうして欲しいわけ?何、よりを戻せとでも言うつもり?」
ほとんどけんか腰で切り返す。
どうもここ最近、我慢ができなくなってきている。
良くも悪くも少しずつ昔の自分に戻りつつあるみたいだ。
「んな分けないでしょう。私たちが言いたいのは、土下座でも何でもいいから謝れって言う事よ」
けれど、そんな私の軽薄さ、または言葉が気に入らないのか、感情をあらわにして言い返してくる。
この際どうでもいいような気がするけど、どうして彼女の周りにいる人たちはこうも感情が表に出すぎるんだろう。
もう少し、隠せないのかと思う。
と、それはいいとして、彼女たちの言い分に対して答えなくてはいけない。
「悪いけど、それは無理」
けれど、だからといって了承するつもりはない。
彼女たちもその言葉を聞いた瞬間ぎらりとした目で私のことを睨む。
どうやら完全に憎まれているみたいだ。
まあ、友達の心をあそこまでずたずたに傷つけられたんだ、そう思っても不思議じゃない。
本当に友達想いだと思う。
だけど、私からしてみれば、それなりの言い分がある。
「よく考えてみて。いきなり別れようと言い出した奴が、今度は馬鹿みたいに謝りに来る。はたから見れば当然なのかもしれないけど、向こうからしてみれば良い迷惑だよ。もしかすると、もう終わったんだから踏ん切りをつけようとしているかもしれないし、まだ思いが残っているのかもしれない。それだけじゃなくて、他の場合だっていろいろあると思う。だけど、どの場合にしても、振った奴が後からいちいち謝りに行くのなんて、どう考えても自分勝手じゃないと思わない?混乱しているところに、わざわざ行ってさらに引っ掻き回す事になるんだよ。それこそ、逆に最低な事だよ」
私が会いに行っても、たぶん彼女は余計に混乱するだけ。
いや、それどころか、逆に罪悪感を感じるかもしれない。
悪いのは私だというのに。
だから、そんな事をするわけにはいかない。
もし謝るんだったとしても、彼女が落ち着いてお互いもう何ともないときにじゃないと意味がない。
だけど、それが彼女たちにしては言い訳にしか聞えないみたいで、もうありとあらゆる罵詈雑言を並べてくる。
なんとなく、そう言うところは彼女と似ているような気がする。
と、それはいいとして、いつまでもこんなところにいても、しようがない。
と言うか、逆に精神衛生上よろしくない。
「話がそれだけなんだったら帰るわ。これ、代金」
そういって、代金を机の上に置くと、さっさと喫茶店から出る。
あれ以上いてもたぶん話は平行線でしかないことぐらい簡単に予想が付く。
けれど、向こうはそれに全く気がついていないらしく、私の名前を叫んでいるが、この際は無視。
聞いたところで時間の無駄でしかない。
それにもともと私は彼女たちのことがあまり好きじゃない。