第三十二話 本当の思いは……
家に帰った私の心の中は自己嫌悪でどろどろだった。
いくら言われたくないことを言われたからといって、あそこまで怒鳴る事なんてなかったと思う。
彼女はきっと必死だったのだと思う。
俺なんかのことを必死で思ってくれていたのだと思う。
だからこそ、私はこうする事を選んだのだ。
私は家へと帰る汽車の中で考えた。
果たして、これからどうすべきなのかと言う事を。
もちろん、よりを戻す事なんか少しも考えなかった。
どう考えても自分とつりあいなんて取れてないと思ったから。
だから、別れた後どうするかと言う事を考えた。
卒業したら、私は県外の大学へと行く。
もう、これ以上両親と一緒にいたくなかったからだ。
既に部屋も冬休み中に決めてある。
彼女の部屋が隣だと言う事もあったけど、それもしばらく経てば気にならなくなると思う。
それに、それがどうしてもだめだったら、部屋を変えればいいだけのこと。
だから、きっとそれは大丈夫だとして考えた。
結果として、今の自分の性格をどうこうするしかない。
いっそうの事中学時代のように振舞ってみてもいいかもしれない。
いや、たぶん、そうしたほうがいいんだと思う。
あのときの私は、間違いなく輝いていた。
だから、それに戻す。
それまでは、今までどおりに、そういうことに落ち着いた。
その際彼女には悪いことをすると思った。
だけど、そうすることでしか自分を支えられそうにもなかった。
だから、彼女にあんな事を言われたときは正直言って面食らった。
まさかそこまでこんな私のことを思ってくれているとは思っていなかった。
だけど、それでも答えはノーだった。
怖かったのだ。
彼女を傷つけることを。
そして、その結果として自分が傷ついてしまう事が。
だから、私は断り続けた。
もう、これ以上彼女とはいられない。
たぶんきっと、また不安を抱き続けることになると思う。
けれど、それだけはいやだった。
何があってもいやだった。
もう、これ以上自分を傷つけたくなかった。
そんな余裕なんて無かった。
彼女と付き合い始めるとき、もうどうなってもいいとか思っていたけど、それは全くの嘘だった。
やっぱりどこまで言っても自分の身はとてもかわいかった。
傷つく事が怖かった。
なのに、そんな私を、彼女を傷つける言葉しか言わない私を、それでも彼女は私のことをまるで賢者のような目で見ていた。
それがいやだった。
私はそんなものじゃない。
そんなたいそれたものじゃない。
そしていつの間にかにその想いが爆発して、怒鳴る事になってしまった。
最悪だった。
最後に見た彼女。
その瞳には涙が滲んでいた。
それが見て入れなくて、私は逃げるようにして帰ってきた。
私は弱い。
弱くて弱くてどうしようもない。
自分の身を護る事しかできない。
だから、きっと今の私には人を愛する資格なんてない。
心から愛してくれている人と一緒にいる資格なんてない。
きっと傷つけてしまうだけだから。
私は、机の上を見る。
そこには、包装紙で包まれた箱がある。
彼女へのお土産。
気がついたら買っていた。
どうせ渡せないくせに。
今日学校に行くとき、本当に緊張した。
出来れば行きたくなんてなかった。
だけど行かないわけには行かなかった。
たぶん、家にいれなかったと思う。
なぜなら今日の朝、追い出されるようにして、学校に行った。
母親は私に対して明らかに怒っていた。
昨日帰ったのは夜中だった。
雪で遅れて予定よりずっと遅くなったためである。
それで夜中に帰った私に母親は思いっきり平手打ちをした。
それから後はずっとお説教。
延々と、まるで自分の憂さを晴らすように。
だけど、私はそれを適当に聞き流すと、妹たちに謝った。
いろいろと迷惑をかけたと思うから。
説教している様子を見て、家がどんな状況だったのかぐらい予想が付いたから。
その時、聞いたのだ。
妹が彼女に世話になったことを。
そのときは、本当に申し訳なかった。
だけど、電話するわけにも行かず、結局今日になってしまい、おまけにけんか沙汰で、もう最悪。
きちんとした御礼もできなかった。
けれど、もう諦めるしかない。
もう、私と彼女のつながりは完全に切れてしまったから。