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第三十一話 届かぬ思い

「信じられないから」


彼がそう答える。


だけどわけが分からずきょとんとしてしまう。


それに彼も気がついたんだろう、すぐに続ける。


「俺は君の事が信じられない。君が本当に俺のことを好きなのかどうか。本当に俺なんかでいいのかってずっとそう思ってきた。そう思ってずっと一緒にいた。だけど、ここ最近まともに連絡が付かなかった。メールも電話も適当になってきた。何か理由があるんだろう、そう思っていた。だけど、それが続くたびに、俺はどんどん不安になった。だから、思ったんだ。そんなに不安なら、もう止めてしまえってね。それに俺なんかといたって、君も疲れるだけだろうしね」


もう信じられなかった。


信じたくもなかった。


私の気持ちが本気か不安だった?


私と自分が相応しいか不安だった?


私が彼と一緒にいて疲れる?


そんなわけない。


私は、彼が本当に好きだし、これから先ももっと一緒にいたいと思っている。


それに私と彼がつりあわない?


そんなわけない。


確かに周りからはそんなふうに言われているけど、私からしてみれば、全くの逆だ。


私のほうが、彼に相応しくなんてない。


そう思えて仕方なかった。


おまけに、私が彼と一緒に疲れる?


冗談じゃない。


彼といるときほど、安らぐときはない。


彼と一緒にいて疲れることなんてなかった。


たまに、嫉妬して後悔するときもあったけど、それでもそれを上回るものがあった。


だから、そんなはずがない。


「私は、あなたのことが好き。もう、これでもかって言うぐらい好き。それだけは、何があっても変わらない。だから、別れようなんていわないで。私はあなたと一緒にいたいし、あなたじゃないとだめ。他の誰かじゃだめなの。だから、お願いだから、そんな悲しいことを言わないで」


自分に自信を持って欲しい。


あなたは彼女の私が誇れるくらいすごい人。


だから、そんなふうに自分を卑下しないで欲しい。


この想い、伝わって。


心の中でそう念じながら、彼を見る。


彼の瞳に動揺の色が浮かんでいる。


彼の心を溶かしている。


だから、きっと、この思いは届いているはず。


私たちはやりなおせるはず。


お願いだから。


「悪いけど、やっぱり無理だ。」


だけど、彼は残酷な言葉で返す。


「どうして!!」


どうして。


どうして伝わってくれないの。


私はこんなに好きなのに。


そんな言葉ばかりが頭に浮かんでくる。


「俺は君を信じられない。これから先もきっと不安を感じ続けていかなくちゃいけないと思う。それを考えるともうどうにもならない。それに、やっぱりつりあわないよ。俺なんかじゃだめなんだよ。自分の彼女のことを信じられず、逃げ出すような男なんかじゃね」


そういう彼の表情はどこか自嘲的で、自虐的だった。


いや、たぶんそのつもりで言っているんだと思う。


だけど、それが胸にちくりと痛む。


自分のせいだ。


ここまで彼を不安にさせたのは自分のせいだ。


私が軽はずみな事をしたから。


だから、これは私のせいなんだ。


悪いのは彼じゃない、私なんだ。


償いたい。


ううん、償わなくちゃいけない。


「だから、わか……」


「いや!!そんなの絶対にいや。別に私のこと嫌いになったわけじゃないんでしょ?別に他に好きな人ができたわけじゃないんでしょ?だったら、やり直そう。やり直そうよ」


そのためにも、今終わりにするわけにはいかない。


償うためには、このまま続けなくちゃいけない。


「無理だよ。俺は、もう君を疑いたくない。君を疑って、傷つけてしまうかもしれないから。だけど、俺はそんなことはしたくない。だから、無理なんだ。終わりにしなくちゃいけないんだ」


なのに、彼は私の思いを汲んでくれない。


無理としか言わない。


それでも、それでも私は……


「傷ついてもいい。疑われてもいい。それでもいいから一緒にいて。私はあなたのことが好き。もうあなたなしじゃだめ。あなたが傍にいてくれないと、どうにかなっちゃいそうなの。お願いだから、一緒にいて。私のことならいいから。あなたが気にする必要はないから」


諦めたくない。


彼の事を諦めたくはなかった。


「それでも、無理なんだ。俺は君を傷つけることが怖い。君には傷つき、壊れて欲しくない。俺と一緒にいればきっといつかそうなる。だから、もうここで終わりにしておいた方がいい。深みにはまる前に」


だから必死になって、言っているのに、それなのに、彼はそれを繰り返すばかり。


どうして、そんなに怖がるの?


別に私は傷ついてもいい。


他人同士の付き合いなんだから、傷つかない事なんてない。


それでもかまわないのに。


やっぱり彼は……


「優しすぎるよ」


そう優しすぎる。


「でも、その優しさは辛いだけだよ」


悲しみしか起こらないと思う。


「だから、お願い。そんな優しさなんて欲しくない。お願いだから傍にいて。私はあなたの傍でその優しさに触れていたい。あなたに包み込まれていたい。あなたは強いから、私のことをそっと包み込んでくれるほど強いから。だから……」


一緒にいて。


そういいたかった。


だけど、いえなかった。


彼の表情が全部消えたから。


わけが分からなかった。


どうして彼がそんな顔をするのかが、全然分からなかった。


別に私は何も悪い事を言ってないと思う。


なのに、どうして彼はそんな顔を……


「……俺が優しい?強い?」


そう口を開いた彼は、ひどく冷たい目をしている。


「冗談じゃない。俺が優しい?優しいなら、こんな無理難題を押し付けたりはしないよ。俺は自分勝手で、自己保身しか考えていない。だから、しつこく別れようって言ってるんだ。それにそれが優しさに思えるのは、俺が自己保身を考えた結果のこと。君のためでもなんでもないんだよ。それに強くもない。強かったら、いちいち城崎までわざわざ逃げると思う?携帯の電源切って、無視すると思う?そんなわけないだろ。弱いから切ったんだ。怖いから切ったんだ。君を傷つけて、自己嫌悪に陥るのが怖いから。自分が傷つくのが怖いから。それでも、そんなふうにいえる?そんなふうに思える?俺のこと何も知らないくせに知ったふうに口聞かないでくれる!!」


彼が大声で言った。


こんな姿は初めてだ。


そして、そう言うと、彼は私を残して帰ってしまう。


わけが分からなかった。


ううん、分かりたくないのかもしれない。


だって、たぶん、これはきっと……


「うっ、ううっ……」


これはきっと、もう彼とはやり直す事は叶わないと言う事だから。


なぜなら、私は彼を怒らせてしまった。


私が良かれといった言葉は彼にとっては侮辱でしかなかった。


だから、きっと、もう……

彼女視線はこれで終わります。

次回以降、彼氏視線に戻ります。

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