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第三十話 離れる心

「ねえ、一昨日昨日とどこ行ってたの?」


なのに、どうしても踏ん切りがつけなかった。


本当は、何で別れようと思ったのかを聞かなくちゃいけないはずなのに。


それでも、臆病な私は聞けなかった。


「城崎温泉。せっかくの休みだから、温泉でも行こうかと思ったから」


そんな私を尻目に、彼はいつもの彼で全く感情の変化を見せない。


ううん、それどころか、何を考えているのかさえ、予測が付かない。


それがとても悲しかった。


ここまで心が離れてしまっている事が。


でも、それでも私は繋ぎ止めたいと思う。


私は心を決めると、息を軽く吸い彼の方へと向き、本題に入ろうとした。


「そういえば、妹が迷惑をかけたね。悪かった。余裕があれば、家がどうなるかぐらい分かったんだけど、ちょっとどたばたしていてね。連絡する余裕がなくて、ついね。あいつにも悪い事をしたと思うけど、なんかいろいろと愚痴を聞いてくれたんだったよね。本当にごめん」


なのに、まるで私が何を言おうとしていたのかを読まれたみたいに、機先をそがれた。


そのため、思わず呆然としてしまったけど、なんだか彼の言っている事が一々腹立ってきた。


どこか投げやりで、感情がこもっていない。


ううん、はたから見れば本当にすまなさそうにしていると思うんだろうけど、彼を知っている私からしてみれば嘘にしか思えない。


どうでもよさ気にしか見えない。


それが腹立たしかった。


「そんな事はどうでもいいの」


思わず出てきた言葉はどこが低い声だった。


「私は彼女が心配だった。だから、相談にも乗ってあげた。ただ、それだけのこと。それに私が話したいことはそんな事じゃない。ねえ、どうして別れようなんて思ったの?何か私が悪い事でした?」


私がそういい終えたとき、初めて彼の瞳から感情がもれた。


今まで一度も見えなかった感情の変化がやっと見ることができた。


だけど、それもすぐに鳴りを潜めると


「メールで送ったでしょ。疲れたって。それに、君が悪いわけじゃないって。ただ、それけ……」


「わかんないよ!!」


また元通りの表情になる。


また、どうでもよさそうな、私になんかまったく興味の無いような表情になる。


それがたまらなくいやで、叫んでいた。


「全然、わかんないよ。どうして、疲れたのか。どうして私が悪くないのか。何で、別れなくちゃいけないのか。それが全然わかんないよ」


納得がいかない。


私は別れたくない。


だけど、彼がどうしても別れたいって言うんだったら、せめて納得のいく説明をしてもらいたい。


そうじゃないと諦めきれない。


そして、何より、きっとこの恋が終わることさえない。


「だから、教えて」


彼をじっと見る。


目をそらしてやるもんか。


何があっても、納得の行く理由を言ってもらわない限り、私は引くつもりはない。


彼はそっとため息をついた。


めったに付かない彼が、だ。


だけど、そんなことは今はどうでもいい。


大切なのは、答えだ。


だから、目をそらさず彼を見つめる。


彼が答えるまで。


そして、その意思が通じたのか、彼は顔をゆがめた。


それほど言いたくない事なんだろう。


だけど、聞かないわけには行かない。


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