第十七話 彼の優しさ
亀のような足取りだった私も、ようやく彼の家に辿り着く事が出来た。
時刻を見れば、ゆうに一時間はたっている。
しかも、メールが来たのはどうやら、朝も早い時刻だったらしく、かなり彼を待たせてしまっている事になる。
そのためか、こうして彼の家に来たのだが、チャイムを押す勇気が出ない。
押そうと思っても、体が硬直して思うように動いてくれない。
私は必死なって冷静になろうとする。
けれど、落ち着かせようとすればするほど、逆に心内が波打って、冷静どころの話ではなくなってしまう。
でも早くしなければ、さらに彼にいやな心象を与えてしまうかもしれない。
私は、力を精一杯振り絞るとチャイムを押す。
けれど、誰も出ない。
私はもう一度チャイムを押す。
けれど、相変わらず誰も出ない。
わけもなく突然怖くなって、私は彼の携帯に電話を掛けた。
けれど、つながらない。
何度掛けてみても、聞こえてくるのは、電源が切られていると言うアナウンスだけ。
私は思わず、その場に崩れ落ちてしまった。
理由は分からないけど、彼が何がしたいのかだけは分かった。
彼は、私とは会うどころか、話すらしたくないので、私をずっと避けようとしている。
なぜなんだろう。
彼はどうして私のことを嫌ったのだろう。
私が何かしたのだろうか?
もしかして、ずっと彼との事をおざなりにしていたのがいけなかったのだろうか。
いくら、忙しくて疲れたからといって、電話もメールも適当にしたのがいけなかったのだろうか。
彼の優しさに甘えていた私がいけなかったのだろうか。
彼は、ずっとそんな私のことを許してくれた。
おざなりな扱い方でも、彼は許容してくれた。
だから、私は甘えてしまった。
彼は、私に優しいから。
だからきっと、大丈夫なんだと勝手に思い込んでしまった。
彼はきっと、私の傍にいてくれる。
私をおいて行ったりしない。
何て勝手に思い込んでしまっていたのだ。
私は、のろのろと立ち上がると着た道を戻り始める。
彼が私に会おうとしてくれない以上、今ここにいても仕方がない。
明後日は登校日。
その日、会ってしっかりと話し合えばいい。
きっと、分かってくれるはず。
彼ならきっとわかってくれるはず。
彼は、優しい人だから。
だからきっと本当のことを言えば、笑って許してくれる。
そして、信じてくれるはずなんだ。
私が、どれほど彼のことがすきなのかって言う事を。