第十五話 たった一通のメールで
ここからしばらく彼女視点に変わります。
それに伴って、時間軸も少し戻ります。
昼過ぎになって、ようやく私は目を覚ました。
ここ最近ずっと練習、練習でまともにゆっくりするなんてできなかった。
けれど、そんな日々も今日でおしまい、ようやくお母さんから合格点をもらった。
と言うわけで、今日は久しぶりにあの人と遊びに行こう。
ここ最近ずっと忙しくておざなりになってしまっていたので、怒られてしまいかねない。
まあ、彼は怒りはしないだろう。
彼は優しいから、きっと笑って許してくれるはず。
私は、内心うきうき気分で、寝癖を治し、顔を洗うと着替え始める。
その際、洗面所でお母さんとばったり会って、冷やかされてしまった。
どうやら、それほど私の顔は緩みきっているようだ。
なんたって、本当に久しぶりに彼に会うのだ。
全ての身支度を終えると私は、机の上に置いておいた携帯を手に取る。
どうやら、私が寝てる間にメールが来てたらしく、画面には新着メールあり、と表示されている。
私は、それをおもむろに開く。
送ってきたのはその彼だった。
もしかしたらデートに誘ってくれたのだろうか。
そう思って、内心さらにうきうきして読み始めたのだが、その瞬間愕然とした。
ひざが笑い始めて、最終的にはその場に崩れ落ちてしまう。
いや、それだけじゃない。
体中の力が抜けてしまい、何も考えられない。
ただ、頭の中で、どうして、と言う単語だけが、掠め続けるだけ。
彼の送ってきたメールにはたった十文字程度の文章。
『もう疲れた。別れよう』
そのたった十文字程度の文章で、私の中の全てが崩れ去ってしまう。
もう、今の自分がどこにいるのかなんて分からない。
自分自身を支えられているのかでさえ、分からない。
それぐらい彼の存在は私の中で大きい。
私は、のろのろと立ち上がると、たどたどしく階段を降りると玄関で靴を履き替える。
その途中、お母さんは私の豹変振りを見て驚き
「ちょっと、あなたどうしたの」
そう訊ねるが、今の私にはそれに答えるだけの余力はない。
ただ、呆然と歩く事しかできない。
彼の家まで。
彼が一体どうしてこんな事をいったのかわからない。
今まで、私たちは本当に仲が良かったと思う。
だから、こんな急な別れ方になるはずなんてない。
きっと、彼に何かあったのだ。
私はそう思う。
だから、私は彼に直接あって確かめたい。
電話やメールじゃたぶん足りないと思う。
いや、そもそも自分の感情と言うものを見せたくはない。
絶対に、直接話さないと分かり合えないと思う。
だから、本当は走って急がなくてはいけないのだけれども、やっぱりさっきのメールのダメージが大きいらしく、力が入らない。
どうしても、とぼとぼとしか歩けない。
そして、私は彼の家へと向かった。