第十二話 お土産と城崎巡りと
豪勢な朝食を取った後、私はしばらくしてからチェックアウトをして街へと向かう。
その際、駅まで車で送ってもらう。
本当に料金の割に、サービスが行き届いている。
適当に選んだつもりが、いいところを選んでいた。
本当に運がいいと思う。
まあ、一人でくるものではない、と思わされるような場面も会ったが、それはそれでよかったのではないかと思う。
私は、駅につくとすぐにそばにある里の湯という外湯めぐりの第一番に向かう。
朝一番に入ったくせにまたかと思うかもしれない。
けれど、それでも、せっかく来たのだから、できるだけ多く入っておきたいのである。
とは言っても、おそらく時間的には、これをあわせて二つ程度だろう。
時間を削ってはいるのは少々もったいないし、それに運動部に入っていたわけでもないので、体力的にもきつい。
そういうわけでそれぐらいにしておいた方が無難なのである。
そう言う訳で早速入らせてもらおうと思って、玄関まで着てみて驚いた。
しまっていたからである。
呆然とドアの前で突っ立っていると、営業案内が描いてあった。
私はそれをしげしげと眺め、ようやく今の状況がやっと分かった。
ただ単に今日は、定休日だったのだ。
私は、ため息をつくと、別の外湯へと向かう。
適当に道を歩いていると、ちらほらと店先に並んでいる商品が目に入る。
ちらほらとかにも並んでいて、これを土産として買えば、妹たちは喜ぶだろうか、そんな事も考えてしまう。
やはり、私だけかにを食べてしまったと言う事に、少々引け目があるのかもしれない。
土産でも買ってやろう。
私はそう思うと、適当に選び始める。
結局、買ったのはお菓子だった。
一瞬、饅頭でも買ってみようかとも思ったが、結局却下した。
私は好きだが、妹たちはそうではないからだ。
それに、城崎銘菓と書かれてはいるが、どこにでもありそうな感が否めない。
そう考えると、やはりこちらの方が無難かと思ってしまうのだ。
私は、自分が買ったお土産の入っている袋を覗き込む。
その中には、異彩を放っているものもあった。
キスをしたくなる飴。
目が惹かれてしまい、思わず買ってしまった。
他にもいろいろあった。
たとえば、泣きたくなる飴とか、勉強がしたくなる飴とか、他にも本当に数多くあった。
おそらく、中身は同じなのだろうが、おかしく仕方なかった。
私はこういうのが好きなのだ。
本当にばかばかしくて、くすりと笑ってしまいたくなるような、そんなものが。
携帯を取り出し電源をつけて時間を見る。
どうやら、お土産をどれにするかで相当迷ったため、かなりの時間が立ってしまったようで、もう昼を過ぎていた。
「そろそろかな。」
けれど、昼食はとらないことにした。
なんだか疲れて食べる気が起きないからである。
商店街を過ぎると、とおりには旅館がずらりと並んでいた。
私が泊まった旅館とは逆方向だったし、一度ここを通ったときは車だったので、詳しいところを見ることができなかったのである。
私は、それらをしげしげと眺めながら、のんびりと歩く。
周りを見れば、平日のためなのだろう、人の姿はあまり見えない。
たまに見かれる人と言えば、明らかに仕事の第一線を終えたような老夫婦ばかりである。
私はそれを眺めながら、どんどん進んでいく。
いつの間にかに橋を渡っていたが、それも気にせず進んでいく。
しばらくした後に、また商店街が会った。
今度は、先ほどのものと比べ比較的落ち着いた佇みをしている。
それがとても心地いい。
自然と私の歩く足取りも軽くなる。
そのためなのだろう、普段なら全く気付かないような松尾芭蕉と書かれた小さなたて看板を見つけた。
古くからある温泉街である、おそらく松尾芭蕉も来た事があってもおかしくない。
よって、それにちなんだ何かがあるのだろう。
私は深く考えることなく、そのたて看板のとおりに曲がってみた。
けれど、角を曲がった瞬間ため息をついてしまった。
少々急な階段を見つけたからでる。
一瞬、見なかったことにしようかとも思ったが、まあ、これも運動かと思いなおすと、私はそのまま上り始めた。
上り始めて分かったが、それほど多いわけでもなく、比較的楽だった。
数分も上らないうちについた。
けれど、それと同時にため息もつきもした。
確かに、芭蕉にちなんだものがあった。
あったのだが、小さな建物の中にぽつんと置かれている芭蕉像と、そばにある小さな立石だけである。
そこには、この場所にちなんだ句が読まれているが、それでもどっと力が抜けてしまった。
別に、ドンと大きな社が立っている事を期待していたわけでもないのだが、けれどこれではあまりにも侘し過ぎる。
私はため息をつくと、一応その像に手を合わせると、今来た道を戻る。
その足取りが少々力ないようだが、この際は許して欲しい。
その後、また適当に歩いた後、一番奥にある鴻の湯に入ることにした。
昨日とは違い、もう券を持っていないので、料金を払ってから、中に入る。
昨日入った一の湯とは違い少々小さい気がするが、そっと心の中にとどめる程度で済ませると、服を脱ぐとさっさと
中に入る。
中は湯煙で充満している事はなかった。
昨日あまりにもすごかったので、もしかしたらと思ったのだが、どうやらあそこだけが特別だったみたいである。
私は一息吐くと、体を洗うと中に入る。
ここはどうやら普通の深さらしく、ゆっくりと入れる。
けれど、窓ガラスの向こうを見ると、思わず外に出たくなる。
露天があったのだが、周りには雪が積もっているのである。
しかも、またちらほらと雪が降ってきたらしく、それがまた風情がある。
我慢の限界だった。
私はおもむろに立ち上がると、外へとでる。
外の外気に触れた途端に、震え上がり、肌には鳥肌が立っている。
さすがにこのまま飛び込むのはまずいと思ったので、体に湯を掛けてからはいる。
さすがに外気に触れているためか、少々ぬるくなっているが、それでも十分に暖かい。
私は、ゆっくりとつかると、瞳を閉じた。