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妖しい紅  作者: 月猫百歩
籠の鳥
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第二十怪 茶番劇

 えっと、ちょっと待って。

 頭がこんがらがってて……一度話をまとめてみよう。

 

 あの男の人は土蜘蛛の妖怪で、いがみ合っていた女郎蜘蛛を邪魔だから潰そうと考えていた。そこで、紅い鬼が私を飼うと知って、自分が女郎蜘蛛に成り代わり、私を襲うことで紅い鬼の怒りを買わせて、女郎蜘蛛を根絶やしにしてもらおうと考えた。

 で、お風呂場で私を襲って、目撃者を作る。

 今度は私が寝ている時に再度襲った。でも既に紅い鬼に見破られていて、結果的に失敗。今に至ると。大体こういうことかな。

 正直まだピンとこないし、分からないことだらけだけど、土蜘蛛の計画はうまくいかなかった事と、私を襲ったのはあの男の人だってことは確かみたい。

 のぞき穴からまた息を潜め、片目で紅い鬼と土蜘蛛の表情を見比べる。


「おのれ……」


 土蜘蛛の目は濃いくすんだ黄色に染まり、体中を震わせている。その気迫に私は壁の向こうで縮み上がり、ようやく気づいた。

 あの黄色い目。私を睨んだ目と同じ色をしている。紅い鬼が言うことが本当なら、やはりこの人間の姿をした人物が、私を襲った物の怪なんだ。


「ばっかだナァ~。なんて茶番だ! 間抜けにも程があるカナ! 俺があの時、『土の姫さん』と言った呼びかけにも普通に返していたしナァ! ほんと~にアホ極まりない」


 今にもブチ切れそうな閻魔顔を目の前にして、紅い鬼はゲラゲラ笑っている。

 なんというか、あれだけ怒っている人(というか妖怪)を前にしてよくあれだけ笑えるわ。青筋立てて、目が血走っているのに。

 土蜘蛛は張り詰めた弓のように口をわななかせていたが、ふっとそれを緩ませると、口角を上げた。


「はっ! お前などに言われたく無いわ! 俺は知っているぞ、紅の鬼! 小娘の名も奪えんとはなぁっ!」


 ピタリと鬼の笑い声が止まる。

 部屋は静まり返り、誰も声を発しない。

 

 え? 何? 名を奪う?

 今の言葉はどう言う意味なんだろう?

 

 壁にへばりついて二人の様子をうかがう。穴の向こうで、紅い鬼はもう笑ってはいなかった。冷たい視線を蜘蛛に向けるだけで指一つ動かさない。気のせいか、不穏な空気が鬼を包んでいる。

 土蜘蛛はそんな鬼をみて、嘲りを含んだ視線を向けて言い放つ。


「貪欲の鬼も墜ちたものよっ! たかが人の子の契約も果たせぬとはなぁ! 大方、一匹逃がし損ねたんだろう?」


「ほう?」


「群れから離れたとはいえ、この俺の網を甘く見るな! お前が捕らえた人の子を逃がして、あの娘を手にしようとしていることは知っている。だが残念だったな! 一匹逃げそびれたようだ!」


 え? それって、誰かがまだこの世界にいるっていうこと?

 鬼は約束を守っていなかったの?

 

 疑問だらけで、私はすっかり混乱した。

 今の話が本当なら、あの時誰かが逃げそびれたって事になる。

 でも確かに、あの時みんなあの岩の扉をくぐっていた。私が一番最後だったんだから、逃げそびれたはずがない。

 蜘蛛は相変わらず紅い鬼に怒鳴り散らす。その声に我に返り、視線を蜘蛛へと戻す。


「逃げた人の子は他の妖怪どもに持っていかれ、今頃屍にでもなっているだろうよ!」


「そんなっ」


 はっとして口を両手で口を塞ぎ、後ろに仰け反る。

 ギィと足元の床が鳴いた。


「ん!?」


 その瞬間、突き刺すような二つの視線が私の喉を締め付けた。

 思わず尻餅をついて震え上がる。

 もう目には薄暗い壁しか見えないはずなのに、そのむこうからハッキリとした視線が私を拘束していた。


「丁度いい」


 聞こえたが早いか否か、何かが壁を突き破り、着物を裾を引っ張られ、あっというまに鬼達のいる部屋へ引きずり出される。

 遠ざかる大破した壁。流れる畳の緑。

 そしてあの時と同じように、するどい何かが私を押さえつけた。畳に身体が痛いほど食い込む。

 

「……あっ」


 目を見開き、体を強ばらせた。男がいた所には人の姿は無く、代わりに象のように大きな蜘蛛が一匹、黄色い牙をむき出しにして私を見下ろしていた。

 その顔は蜘蛛ではなく、鬼と虎が混ざったようなおぞましい顔だった。鉄のような真っ黒な硬い鉤爪で、私の顔をグイグイといたぶる。


「まさか生きていたとは。なかなかしぶとい人の子よ。この紅い鬼に飼われたのが運の尽き」


 人と獣が混ざったような、ざりざりとした声が上から響く。

 紅い鬼のそばに座っていた女の子がすっと立ち上がる。ふるふると身震いすると、次第に緑の肌に変わり、三人の子鬼に姿を変えた。

 あれは子鬼達が化けていたんだ。

 ぎろり。土蜘蛛が鋭い視線を私から紅い鬼へと移した。

 今にも切り込もうとしている子鬼達を紅い鬼が待てと、手を振る。


「紅の鬼よ。我らと手を組もうではないか。そうしたらこの人の子を返してやろう」


「……」


「目の前でせっかく捕らえた雀のはらわたを、お前は見たいのか?」


 一瞬だった。

 目の端にぱっと赤い物が弾けた。

 それが雨のように畳に降り注ぎ、なにかが目の前を転がった。今さっき見たばかりの、虎の顔を持った蜘蛛の化け物。その黄色い目はより霞み、もはや目の前にいる私を見ていなかった。

 ぐらっと意識が揺らめいて、視界が回る。気絶しかけた私を鮮やかな鮮血にも似た腕が、鉤爪のついた足から抜き取る。


 ガクガクと膝が笑う。気絶しなかった自分を褒めてあげたい。 首を落とされても蜘蛛の体は固まっているかのように倒れもせず、ただ血を流してそこに佇んでいた。

 その光景に、畳の上に下ろされた後も、腰が抜けて立ち上がることが出来なかった。


「あ~ぁ。部屋が台無しだ」


 つんと爪先で、鞠のように土蜘蛛の首を転がす。口から耳から血が止めどなく流れ、畳に赤い水たまりを作る。

 呆然とそれを眺める私に、鬼が近寄り傍にかがみ込む。


「怪我はないか?」


 鬼が私の顎をとらえ、目を合わせる。

 私は微かに、顔を上下に動かした。


「し、死んだの?」


「あぁ」


「逃げそびれたって・・・・・・」


「余計なことを話してたナ」


 鬼は顎を離すと立ち上がり、盛大にため息をつく。

 しかしその顔にはどこか笑みを浮かべて、皮肉った表情を作ると呟いた。


「まったく。とんだ茶番劇だったカナ」


 赤く濡れた紅い手がひらりと舞う。

 すると一瞬にして、襖に赤い実が幾つも実った。






前回に引き続き、分かりづらかったかと思います。

がんばりましたが私の文章力の限界でした。

でもめげずに書いていこうと思います!

お付き合い頂いた方、どうもお疲れ様です。

ありがとうございました。


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