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妖しい紅  作者: 月猫百歩
籠の鳥
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第一怪 紅い嘲笑

 私がよく映画や本で目にした不思議体験は鏡や扉、トンネルをくぐり異世界の冒険に出発するもの。

 はたまたタイムスリップをして過去や未来へいくものや、怪談・ゾンビ・幽霊などのホラーものなど。昔ながらの陰気なものも知っていたけれど、それは幼いころ祖母に聞いた話で、数年もたてば思い出すことの無い御伽噺だった。


 すべて作り話。自分とは無縁の世界。

 そう思っていた。


 しかし……



 彼女は朽ちた神社で泣いていた。

 お社の階段で身体をうつ伏せにし、身体を震わせて。

 切ったばかりの髪はボサボサでグレーの制服は所々汚れていた。

 私は彼女に声をかけ、帰ろうと肩に手をかけた。


 パシッと、乾いた音が辺りに響いた。

 友達が私の手を振り払ったのだ。


「分かんない……絶対に……」



 “なにが……分からないの?”そう尋ねようと口を開いたとき、友達は荒々しくポケットから何かを取り出した。

 それは人型をした赤い折り紙だった。わけが分からずにいる私をよそに、友達は無造作に転がっていた錆びた釘を握り締めると、突然激しく折り紙に打ち付けた。


「……だ」


「――――ぁっ!」



 何かを叫びながら、大粒の涙を流しながら、何度も何度も、折り紙に打ち付けた。

 昔、祖母が話してくれた丑の刻参りの女性のように……。


 しばらく呆然とその様子を眺める私と友人たち。

 ハッと我に返り、私はまた泣き叫ぶ親友の肩に手を置こうと手を伸ばす。


「ねぇ……みっちゃん……」


 その時、音も無くなんの前触れも無く突然闇が広がった。

 ボロボロになった折り紙が音もなく踊るように宙に舞っていく。

 私達はまるで金縛りにでもあったかのように誰一人身動きせず人型の折り紙を凝視していた。人型はフラリフラリと闇の中へと小さくなっていき、ポッと深紅の灯火へと姿を変えた。灯火は揺らめいて次第に大きく燃え上がると、ニヤリと笑った。


「ようこそ」



 自分とは無縁だった世界が、真っ赤な口を開けて「おいで」と手招きしている。

 私たちはただどうする事も出来ず、闇を受け入れるしかなかった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 





 落ち着いて……落ち着いて!

 

 自分にそう言い聞かせ、深呼吸を繰り返す。あそこまで自分達の力で扉の前まで辿りついたんだ。何一つ責められる事なんて無い!

 相変わらずニヤニヤ笑う紅い鬼を見やり口を開く。手に汗を握りながら。


「い、意見も何も。私たちは自分で扉を開けてここから出ようとしただけ。貴方は私との約束を破った。助けてなんてくれなかった! だから私たちは自分達の力であの扉を開けただけ!」


 身体全体が脈を打っているような感覚を持ちながら私は精一杯話した。

 自分達に非はないと。なんら間違っていないと。

 しかし紅い鬼はクツクツと笑い次第に大きな声で笑い始めた。


「……なにが可笑しいの?」


 この時ばかりは恐怖を忘れ、ムッとして訊ねた。


「いやいやいや……。大変おめでたい娘かなぁ。自分達の運と力だけであそこまでたどり着いたと思っている。まさに……まさに滑稽カナ!」


 ひとしきり大笑いした後でニヤリ笑い、また私を深紅の目で見据えた。


「大広間の騒動も、裏口の鍵も、門番も、全てこの俺がやったこと。お前達は俺が手を引ひいてあの扉まで連れて行ったも同然……」


 一体この鬼はなにを言ってるのだろう。

 あの大広間のバカ騒ぎも、裏口に落ちていた鍵も、酔いつぶれていた門番も。

 この鬼が?


「な、なんでそんな遠まわしな」


「行灯もってご案内でもするとでも思っていたのカナ?」


 私の言葉をさえぎり小馬鹿にしたように言った鬼は、おもむろに立ち上がった。


「いやいや、それでは面白みにかけているなぁ~」


 また、手をヒラリとさせた。

 その瞬間、まるで電撃が走ったように私は悟った。

 

 ば、馬鹿にしている!

 私たちが必死になって戦々恐々としながら、あの扉を励ましあって目指しているのをこの紅い、腹立たしい鬼は、影でニヤニヤ笑って見ていたということだったワケ!?

 無事に扉まで行けたと喜び合ったのを見て滑稽だと笑っていたの!?


 きっと今、自分の顔はそこにいる鬼の瞳並みに紅潮しているのだろう。

 先ほどまで怖さで震えていた拳は今では怒りでふるふると震えている。

 そんな私をみて鬼はなだめる様に両手を振った。


「まぁまぁ、兎に角。約束は守った」



 鬼はゆっくりとこちらへ歩を進めた。

 一歩一歩、勿体ぶらせるかのように。

 そのゆっくりした足取りは、今さっき燃えたばかりの私の怒りを小さなものにさせ、かわりに恐怖の影を忍ばせた。


「さぁて……」


 紅の瞳を鋭く光らせ、その眼に宿っていた笑みを消す。

 笑みと同時に部屋の明かりも消え、私の怒りの炎も消え一切の光も無い真っ暗闇。


 しんと静まり返った中、耳元で紅い声が囁いた。




「後はお前さんが守る番」








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