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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

桃花壊し

掲載日:2026/03/19

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 壊す、というのは生きている中で嫌でも学ぶことのひとつだと思う。

 形あるもの、整ったものを元の姿へ返してしまうこと。あらゆる営みは壊れてこそ、新しいものを生み出すことが可能となるから、破壊は創造とワンセットにされて神の御業とされる場合もあるという。

 なにより、自分がやらかしたことであるという、ゆるぎない証でもある。

 簡単に、あるいは絶対に取り返しがつかないことだからこそ、人は心に深く刻みつけがちだ。壊す行為はその最たるもの、しかも悲劇とは限らず自分の力の誇示にも成り得る。

 創る行為もまた尊いが、それよりも少ない手間と時間で達成できちゃうのだから、意欲も注ぎやすい。でも、細心の注意を払わなくては思わぬ不幸を招くかもしれない、諸刃の剣であるともいえよう。

 壊しに関する、ちょっとした話を前に聞いたんだけど、耳に入れてみないかい?


 桃花、と呼ばれる植物を知っているだろうか。

 シンプルな桃の花の意味じゃなく、足下に咲く小さな桃色の花全般のことを指すんだ。


 ――桃色をした花なら、時期を考えれば探すのは難しくないんじゃないか?


 いや、この桃花に関しては非常に限定された存在を指すんだ。大人になってからも、ないわけじゃないが、子供のうちに出くわすことが多いらしい。

 そしてその桃花は、破壊行為があまりいい顔をされない世の中において、積極的に処理することが望まれるものなんだとか。


 話を教えてくれた知り合いによると、知り合いが出くわしたのは5歳のときらしい。

 それまでは外を歩くとき、常に自分の先を進んで案内してくれた親が、ときどき自分を先に行かせて、後ろからついてくるような仕草を見せるようになった。

 最初は自分で歩いていくことを覚えさせ、後ろから見守るという形をとるのかと思いきや、少し事情が違うことに知り合いは気づく。

 もし見守るのならば、距離を必要以上に離そうとはせずに一定を保つ感じだろう。しかし、ときおり振り返って様子をうかがうと、親はところどころでかがんで自分の歩いた跡を確かめていたという。


 そのときに、はじめて桃花のことを知り合いは聞いた。

 こいつは人の出す老廃物の一種とされているが、全員がひねり出すとは限らないものらしい。

 でも、もしその老廃物を出しているなら、そいつが歩いた後のどこかで「桃花」が顔をのぞかせる。そいつは見つけ次第、壊すようにして駆除しないといけないとのこと。


「実際、桃花はここに出ているぞ」


 親に手招きされるまま、寄っていく。

 そこにはアスファルトを突き破って咲く、桃色の花があったらしい。桜に似ているが、その高さはほんの数センチほど。

 すでに桜を見慣れていた知り合いにとって、そのコンパクトさはこっけいなものだったけれど、親はこれを見つけたらすぐに潰さなきゃいけないと語る。実際、直後に靴裏の圧を上から受けたその桃花は、散り散りになってしまったんだ。


 お前はどうも、桃花を出しやすい人みたいだから、成人するあたりまで特に気をつけろ、と知り合いは注意されたみたいだ。

 まあ、気を付けてはいたし、桃花が見られたのも確かな話。そのために知り合いは都度、破壊していったとのこと。

 でも、まさか歩きのみならず自転車のときにも適用されるとは、想定していなかったとか。

 自転車ではじめて隣の市まで遠出して、帰ってきてから数日後。その市で奇妙な症状に悩まされる人が出てきた。

 ざっくばらんにいうと、体中にあの桃花が浮かび上がる。まるで入れ墨を入れたかのようにくっきりとだ。痛みはないものの、その異様さは本人が厚着などをして隠したくなるほどのもの。

 そして時間が経つと、肌を突き破って桃花が咲く。身体の内側からじかにだ。桃色はその人の血の色に染まって、真っ赤に花咲く。素人知識でも花をむずとつかんで根から引っこ抜けばその場はおさまるが、代わりに輸血が必要になるほどの大量出血を伴うのだとか。


 知り合いもこの症状が現れ、地元の病院へ行った。同じような患者の姿は多く、先生もまた手慣れた様子。注射を一本打ったあと、痛みや出血は最低限におさえたままでピンセットで根こそぎにしてしまった。

 原因は、知り合いが自転車で通った河川敷の土手。そこに数日前から人の背ほどに伸びた桃花があり、近くに住んでいたり遊んでいたりした人に影響が出てしまったらしい、とのことだった。

 桃花はすぐに取り除かれたし、知り合いも成人するまでいっそう気を引き締めて見守っていたとか。

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