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神の意見

 気が付けば、私は音も色も無い、果てしない白銀の空間に横たわっていた。

 先ほどまでの血の匂いも、喉が焼けるような絶叫も、ここは間違いなく幻のように静まり返っている。


 重い瞼を開けると、そこには七人の先客が居た。


「目覚めたのかい」


 一人の老年の男性が、慈しむような眼差しでこちらに近づいてくる。


「儂の名前はアーカイアと言う。そして、こちらに控えているのが…」


「テラ=ルーミナと申します。自然を司る神です。どうかテラとお呼び下さい」


 緑の髪をした穏やかな青年が微笑む。


「私はエリオスだ。想像の神」


 紺色の髪を持つ中性的な人物が淡々と告げた。


「アストラエルと言う。…魔法の神だ」


 周囲より一段と細身で、透き通るような銀色の髪をなびかせた青年が続く。


「ヴァルガンと申す。剣の神だ」


 燃えるような赤髪をした、逞しい男の声を響かせた。


「ノクティリウスと言いますわぁ、勉強の神ですわぁ」


 桃色の髪をふんわりと巻いた女性が、優雅に一礼をする。


「どうも、シルヴァーナと言います。精霊の神をしています」


 エメラルドグリーンの髪を凛となびかせた女性が私を見つめた。


「そして、儂はこの六人を束ねる神だ」


 アーカイアは再び口を開く。

 驚くべきなのは、彼らの年齢も性別もバラバラなのに、その瞳だけは例外なく、一点の濁りも無い金色の瞳に輝いていることだ。


「あっそう、で、何の用?」


 自分の声が、自分で驚くほど冷たく、地を這うような低温だった。

 神と名乗る連中の前だろうが、敬意など一欠片も湧かない。今の私にとって、家族の居ない世界に他人と関わる義理は無かった。

 神なんてもってのほかだ。もし、神が家族を助けてくれたら。もし、魔獣を殺してくれたら。もし、私に力をもっと与えてくれたのなら。

 だが、こいつらは何もしなかった。


「お主に、サムティケン王国の闇を暴いてほしいのだ」


「闇?」


 アーカイアによれば、その王国だけが、神の目でも見通せないほどのどす黒い霧に覆われているということ。


「だから、いつまでも悲しんでいる暇は無いぞ。リリアーナ」


…は…?


 私の中にある何かが、音を立ててぷつんと切れた。


「儂らも水晶越しに見ていたが、あの家族の死は、いわば()()()()()()()だ。寿命が数十年早いか遅いか…だけの話し。気にする必要はない」


…ああ、そうか。

 

 どいつもこいつも屑ばっかりだ。

 目の前の神も、あの家族を血の海に変えた「何か」も。


「気にする必要は…無い…ね」


 私はゆっくりと立ち上がる。

 五百年連れ添った金の瞳に、かつてないほど底冷えする殺意が宿っていた。


「それで、私は具体的にどうしたらいいの?」


 とりあえず、この屑どもの口車に乗ってやる。

 もしサムティケン王国の闇が、私の家族を奪った「何か」と繋がっているのなら、これほど喜ばしいことはない。私の手で、その闇ごと全てを握りつぶせるのだから。


「まずは王都へ行き、王に会うがよい」


「…ふふ、超具体的だね」


 私は口角を吊り上げ、危うい光を湛えて微笑んだ。


「いいよ、やってあげる。その代わり条件がある。一つ、私に二度と干渉しないで。二つ、私のやり方で暴くこと。三つ…邪魔をするなら、神だろうと殺すこと」


 私の不遜な物言いに、神々は眉を顰めたが、アーカイアだけは満足げに頷いた。


「ああ、いいとも。…餞別に一匹の子猫を授けよう。きっと、お主の『牙』となるはずだ」


 神達は霧が晴れるように、白銀の奥へと消えていく。

 一人残された私は、自分の内側に宿る「かつての感覚」を思い出していた。


…もう、神は信じない。人間も自分さえも。


 全員を利用し、全員を捨て駒にして、標的の息の根を止めてやる。

 人を殺した経験など無いはずなのに、不思議と私の魂はその「やり方」を覚えていた。


 懐かしい、この凍り付いた心地よさ。

 かつて、伝説だと謳われたエルフの王女は、その誇りも捨て去った。


 私は今は『フォーレンエルフ』として、地獄の先にある復讐の道を選んだ。

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