ルキシャは見たこともない動物に乗ります
トーカル公国の一行は、とうとう山道で馬車を進ませられなくなった。
夏なので日没までの時間はあるが、こんな道の途中で留まるわけにはいかない。
近くの集落に助けを求めようとしたところ、道の向こうから背の高い動物の一軍を連れて精霊の如き人が現れた。
「憚りながら、トーカル公国から来られた親善大使の御一行であらせられますね?」
宮殿から親善大使を迎えに来たエレンだ。
麗しい救世主の出現に公国の一行は心底安心した。
もう、へっとへとだった。
ただもう逃げられないのだとルキシャとメリアは覚悟を決めた。
エレンと名乗ったサラナーム人は、見たこともないような躍動的な刺繍の入ったローブを纏い、これまた見たこともないような大きな角の生き物に乗っている。
そしてその生き物の上から、ふわっと地面に降り立った。
エレンはトーカル公国一行の荷物を連れて来た大角の生き物の背に移し替えさせた。
なんとこの生き物、サラナームだけに生息する巨大な山羊なんだそうだ。
普通の山羊と違って人や荷物も運ぶことができる。
しかも崖をひょいっひょいっと登っていくことができるのだそうだ。
公国から乗ってきた馬車と馬は近くにある護衛の詰め所のようなところに預けておくことになった。
荷物の移し替えが終わった。
最後に、公国の馬車からまずは侍女が、そして公女が地面に降りた。
( やはり噂は本当か )
エレンは思った。
公女は旅のための動きやすいドレスを着ているが、その色が白い。
しかも思わせぶりに頭から白いベールも被っている。
国によって慣習は異なるが、このサラナームでも「白」は婚礼の意味を持つ。
侍女に手を引かれて静々と公女がエレンの近くまでやってきた。
仕事が早い有能なエレンだ。
すぐさま、ひと際大きな山羊に乗せた輿に公女と侍女を案内した。
山羊の背は高いところにあるので、そこまで登るための簡易な階段が降ろされている。
手摺も付いていた。
山羊に乗るのはもちろん初めてなのだが「ルーナ公女」に扮するルキシャはメリアと共に、なんとか輿へ登った。
本当に巨大な山羊で輿にはドレスの二人が乗ることができた。
輿は壁と屋根が木材で組まれており出入り口の他に通風のための開口部もついている。
中に入ると、よく分からない太い紐が置かれていた。
輿のすぐ傍まで寄って、エレンが声を掛ける。
「公女殿下、輿は絶対に落ちたりはいたしませんので、ご安心を。
崖を登る際は揺れますので、その紐を体に巻いておいてください」
なるほど。その為の紐だった。
メリアはとにかく紐でルキシャをぐるぐる巻きにして自分もそれに捕まった。
多分やり方は間違っていると思うがなんとかなった気がする。
準備ができて、トーカル公国の親善大使御一行は水の魔術使いだと自己紹介をしたエレンに先導されてゆっくり崖を登っていくことになった。
今回同行している侍女はメリア一人だ。
残りの護衛騎士と数名の文官も多めに用意されていた輿になんとか乗った。
ちなみに山羊が背負う荷物のひとつは茫然自失のままで寝てしまったアーネストだ。
落ちないようにしっかり縛られた。




