再び、謁見
見上げるといつも頭上に雲が漂っているサラナームで、今日は珍しく空の青の面積が大きい。
秋晴れだ。
サラナームは夏が短い。
既に朝夕は涼しいを通り越して肌寒い。
宮殿の広間に集まった人々の装いも少し厚手のものに変わってきている。
「トーカル公国親善大使のルキウス公子殿下が入室される」と告知があり、皆の視線が扉に集まる。
扉がゆっくり開く。
黒い騎士服を纏った、細身だが逞しさもある男性が広間に登場した。
その金絹の髪は肩までで切り揃えられ、前髪は後ろに流されている。
秀麗極まりない若い公子には、しかし僅かに威厳のようなものも滲んでいる。
トーカル公国から公女に加えて公子も訪れたとは言え、今日、宮殿の広間には公女の訪問のときに比べ十分の一も人は集まっていない。
公子の訪問が公女のとき以上に突然だったからだ。
これも急なことだが公女の方は文官と共に既にトーカル公国へ帰ったそうだ。
君主は落ち着いた笑みを湛えて公子を見つめている。
今日は君主の隣に妃の姿も見える。
ルキウスは恭しくかつ慣れたようにも見える足取りで進む。
我ながら都合が良すぎるとは思うがここはやり切るのみ。
変に躊躇してはいけない。
大丈夫。大丈夫。
( すごいわ! ルキウス様、どうやってもお美しすぎる! )
君主の傍に侍る人々の中で、首に巻かれた碧のリボンが滑らかに揺れた。
ルキウスの従者はトーカル公国の護衛騎士アーネストが務めている。
亜麻色の髪で長身のアーネストの麗しさにも、そこここでため息が漏れる。
アーネストが暴れた大山羊を素手で倒したという英雄譚がまことしやかに囁かれており、心酔した眼差しを送る者もいる。
今日のアーネストはトーカル公国の正装に身を包んでいるが、普段はサラナーム風に腰で布を巻いていることも知られており、サラナーム人の好感度も高い。
ルキウスがサラナーム君主の前で胸に手を当てて丁寧な礼を取る。
「お目にかかる光栄に感謝いたします。
トーカル公国より参りましたルキウス・ド・トーカルでございます」
「ルーナ」公女が同じくこの広間に現れてベールを取ったときの記憶はまだ新しい。
公女と同じ碧の貴石のごとく輝く瞳に人々は吸い込まれそうになる。
それにしてもと、エレン侍従長は考えていた。
「ルーナ」のときは、もっとなんと言うか、人知を超えた美貌の輝きに、皆、雷に打たれたようになってしまったのだ。
しかし目の前のルキウスは端麗には違いないが同時に人間味も感じられる。
ルキウスが扮した「ルーナ」。
あれはやはり殿上人の幻影だったのだ。
十六歳と聞くが、なんだかルキウスは年相応の甘酸っぱい空気すら漂わせている。
「ルキウス殿下、はるばるの来訪、誠に痛み入ります」
今回はちゃんと君主キーズが応える。
妃も気高く微笑んで頷いている。
ルキウスは真っ直ぐにキーズを見た。
「お会いできて本当に嬉しく思います。
早速このようなことを申し上げる無礼を、どうかお許し頂きたい、キーズ様」
君主は人好きのする笑顔でルキウスを見て頷いた。
ルキウスは向き直って言う。
「どうか、この願いを叶えてください。カディラ嬢」
ルキウスはキーズのすぐ近くに控えていたカディラの前に進み、そして片膝を付いた。
カディラはルキウスの騎士服姿に感激していたのだが、今は急な展開に付いていけない。
「わたしを、あなたの、『黒き静かな夜闇の髪を持ち、慈しみ深く輝く瞳』の、あなたの婚約者にして下さい」
( ……??? )




