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カディラも決意します


 ルキウスがキーズと話をしたあとメリアは急に忙しくなった。

 メルちゃんと遊んでいる余裕など一切無くなりストレスが溜まって行く。

 どちらにせよ故国トーカル公国へ戻る日は遠くない。

 メルちゃんは連れて行けないだろう。

 このサラナームでしか生きていけないのだ。

 そうなったら次にメルちゃんと会えるのはいつになるだろう……。


「メリア様、このまま縫っていくと刺繍と重なりますがどうしましょう?」


 切ない感慨に浸っていたメリアにサラナーム国君主付きのお針子から指摘が入る。

 そうだった。

 「自分は男でも女でもどっちにもなれる」とドレスを着ていた公子様が「これからはルキウスと呼んでくれ」などとほざいておられる。

 そして男性用の礼服を準備して欲しいと(のたま)ったのだ。


 故国を出るときに用意はしていた。

 パターン公子も考慮していたからだ。がっ。

 公子様、短期間に随分背が伸びていた。

 慌てて調整作業に当たっている。

 やれやれっだ。

 少々気持ちが荒むのも仕方ないはずだ。


 それにしても、ルキウスとカディラはどう見ても両想いなのに、なぜかまだくっ付いていない。

 しかも、このところカディラの方はこっそりため息を付くようになってきた。

 ルキウスの告白を期待して待っている……ようには見えない。


 なんか行き違ってないっ?

 ルキウスはすっきりさっぱりして、自分だけステップアップしたような気になってないっ?

 んー……。バカなのっ?

 男って、みんなバカなのっ?


 いいよね?

 別に自分がまだルキウスに未練があるとかじゃなくて、二人の背中を押してあげるようなことまでしなくてもいいよね?


 カディラはメリアの二歳年上だけど、なんと実は『雷帝』さまなんだけどっ、偉ぶったりしないし、とても感じの良い可愛いらしい人だ。

 何より、天から沢山与えられ過ぎた為に自分を滅して生きてきたルキウスが、あんなに見つめ続けるのだから、ルキウスがやっと見つけた己の幸せなのだから、上手くいって欲しいと思う。


「まあ、これくらいはいいかっ」


 メリアは持参していたドレスの装飾の中から見つけて、ルキウスの瞳の色に合わせて染めた碧色のリボンを丁寧に外した。




 カディラは最近、よく夢を見るようになった。

 ルキウスが出てくる夢のこともあるが、母との会話を思い出す夢も見るようになった。


 「ルーナ」の夢と同様に、夢のルキウスも優しくカディラに微笑みかけてくれる。

 でもルキウスは決まって夢の終わりで手を振りながら去っていくのだ。

 にこやかに笑みを浮かべたままでだ。


 今日も夢のルキウスは馬に跨ってカディラに手を振っている。

 「ルーナ」のときと違って髪が短いルキウスは眩しいほどに凛々しい。

 傍には馬に乗ったアーネストと、なぜか大山羊に乗ったメリアも随行している。

 そしてカディラにサヨナラを言うように大きく手を振ったあと、三人は顔を見合わせて幸せそうに笑い合ってから颯爽と去って行く。


 カディラは……笑えているだろうか。

 涙は絶対見せてはいけないのだ。


「カディラ、カディラ、愛しいカディラ」


 呼びかけてくれたのはカディラの母だ。

 今日の夢には母も出て来てくれた。


「カディラ、泣いてもいいのよ。

 行かないで欲しいと言ってもいいのよ」


「それはダメよ。ルキウス様たちはお国へ戻られるのよ。

 お国で沢山の人たちが帰りを待っているはずだわ。

 また……逢いに来て下さるはずだから、一生の別れではないのだから、

 私が大袈裟に泣いては迷惑を掛けてしまう……」


 ルキウスに逢ってからすっかり情緒が豊かになっていたカディラの表情が以前のように固まっていく。


「あらカディラ、忘れているのね。

 愛しい人から掛けられる迷惑は、やっぱり愛しいのよ。

 母はそれをあなたに何度も伝えたはずよ。

 生きていくということは誰かに迷惑を掛けることだもの。

 母は、カディラの母になれて本当に幸せなのよ。

 カディラが掛ける迷惑も、カディラごとで宝物だわ」


 ああそうだ。

 母はそんなふうに言って、カディラの心が塞がないようにしてくれていた。

 だからカディラは罪悪感に呑み込まれたりしなかったのだ。

 だから『雷帝』の役目にも就けるのだ。

 だから母の光を奪った力で人々の役に立つことができるのだ。


 そうか、カディラはルキウスを唯一の人だと気持ちを寄せていてもいいのだ。

 少し泣いたりしても、それでルキウスが困った顔をしても、少し迷惑を掛けても。

 母が大切にしてくれた自分のことを少しなら甘やかしてもいい気がする。

 そして、ちゃんとルキウスを見送ろう。


 なんだ。

 自分を少し許したら、いろんなことが怖くなくなってきた。

 別れはとても辛いけど、この心までを手放さなくてもいいのだ。



 朝になってカディラは目を覚ました。

 うーん、と伸びをしてベッドから降りる。

 黒い輝石と、そして碧の貴石の指輪は、今もカディラの傍らにあって仲良く並んでいる。

 今日は更にその横に、メリアから預かった碧色の美しいリボンも飾ってある。

 メリアはこのリボンをカディラに渡すときに言っていた。


「私は管理してるだけで一応ルキウスの私物だから。

 差し上げられないけどカディラさんに渡すなら誰も文句言わないわ。

 だからカディラさん、コレ預かっておいて。

 そして、そうしたくなったら、コレを付けてルキウスの前に立ってあげて」


 カディラはリボンをそっと撫でた。


「ルキウス様……、だい……すき、です」


 まだまだ昇華させるには大きすぎる気持ちだが、ともかく、カディラはこの気持ちを自分の傍に居座らせることにした。

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