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ルーナは決心し、ルキウスは決意します


 ルキウスは目覚めてからもしばらく熱が下がらなかった。

 カディラは献身的に看病にあたった。

 ルキウスがカディラに傍に居て欲しいと望んだからだ。

 病気を盾に取っている自覚がもちろんルキウスにもあったが、カディラがニコニコ応じてくれるので甘えた。


 調子に乗らないようにと思うのだが、カディラが優しいのでルキウスはカディラに何かと手を握ってもらった。

 カディラの手に触れると、落ち着いていた熱がまた上がるような気がする。

 顔も赤いはずだ。

 でも、体から甘く痺れるような感情が湧いて来て放したくなくなるのだ。


 カディラの方は、動きがギクシャクしている気がするが、ルキウスに求められることが大変に嬉しい。


( そうよ。こ、これは、きっと、精神的な治療の行為なのだわ。思い上がってはいけない )


 心労が重なっていたルキウスにとって手を繋ぐのはリハビリの一環なのかもしれない。

 カディラはそう考えて冷静になるよう努めている。が。

 一度繋いだルキウスの手を離すとき、カディラも名残惜しくて仕方なくなる。


 カディラは最初「ルーナ」が男だったと知って驚いたが、すぐに納得した。

 改めて臥せっているルキウスを見てみれば「彼」が男性であることは明らかで、なぜ勘違いしていられたのか不思議なくらいだ。

 ルキウスという人には、あの碧の瞳には、周りを信じ込ませるような特別な力があるのかもしれない。


 正直、まだ少し混乱している面もある。

 カディラは「ルーナ」が好きだった。

 でも自分の想いを知られたら「ルーナ」との親愛が崩れてしまうと思い、誰にも悟られまいと封じ込めようとした。


 カディラはルキウスのことも………。

 ルキウスのことも……、やっぱり、好きみたいだ。

 息をする瞬間ごとに想いが募るような気がする。

 でも、ルキウスへのこの想いは、カディラが持っていても良いモノだろうか?


 ルキウスはサラナーム人ではない。

 元気になって二国間の協議にめどが立てば故国へ帰るのだ。

 そんなのはあっと言う間だ。

 しかも、故国では次期大公という重い地位にある。


 もう会えなくなるわけでは無いだろう。

 『奇跡の動力石』のやり取りは今後も続くはずだ。


( ……でも、もうすぐ、こんなに心が近いところで傍にいられることは……無くなるのかな )


 カディラは胸が締め付けられる思いがした。


「んーん」


 目の前で眠っているルキウスが少し息を吐いて首を横にした。

 そうだ。どちらにしても、カディラが慕うこの人が無事でよかった。

 追い詰められて女性になる薬を飲んでいたかもしれないのだ。

 アーネストを助けるために無茶な行動にも出ている。


「本当に無事で良かった」


 ルキウスの寝顔にそっと呟く。




 ルキウスは順調に回復した。

 カディラが傍に居てくれるので少しだけ余計にベッドで過ごしてしまったが。


 トーカル公国で待つ姉のルーナからの手紙を受け取ったルキウスはカディラに頼んで髪を切ってもらった。

 カディラは最初、こんなに美しい髪を切るなんて大変恐れ多いと躊躇したが、ルキウスの瞳に見つめられると嫌とは言えず渾身の力でハサミを持った。


 ルキウスは、離れてしまうと思っていたカディラが傍に居てくれるので、とてもとても嬉しい。

 ベッドから出られるようになっても話相手としてカディラは尋ねて来てくれる。

 ルキウスの故郷の話や、サラナームの人々の暮らしなど、様々な話をした。

 二人は友達ぐらいにはなれたはず、とルキウスは思っている。

 なので髪を切るお願いもしてみた。


 ハサミを持ったカディラの心は揺れに揺れたが雷雲はやって来なかった。

 もうカディラはどんなに動揺しても意図せず雷を呼ぶことはない、とこのとき思った。

 それぐらい緊張した。


 髪を切ってもらうとき、それはもうカディラが可愛かった。

 ルキウスの顔の近くで百面相をしているのだが、本人は金絹の髪に注視していてそのことに気が付いていないようだった。

 こんなご褒美が世の中にはあるのかとルキウスは悶えていた。




 ルーナは手紙で、


 ルキウスは無謀過ぎるので公国の統治者には相応しくない。

 なので、ルーナが女大公になると父母に宣言する。


 と、伝えてきた。


 ルーナは思い切ったのだ。

 ルーナが決心すれば周囲を説得できるだろう。

 ルーナはそれだけの力を持った志の高い人だ。

 もうルキウスがルキシャになる必要はない。

 母だってこの事態のあとで何か言うことは、もはや無いだろう。

 だから髪を切ることにした。


 髪を切った直後に、サラナーム国君主のキーズがルキウス公子の滞在している客間を訪れた。


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