ルキウスは目を覚まします
「……ル、キウス様、目を覚まされたのですね」
カディラはルキウスをルキウスと呼んだ。
ルキウスが夢の中で縋って掴んだのは、カディラの腕だった。
カディラは腕を掴まれたまま、中腰で水差しをベッド脇のチェストに置いてルキウスの方を向いた。
「水が少しこぼれてしまいましたね。今拭きますね」
カディラは再び腰を上げようとしたが、行かないで欲しいと思ったルキウスはとっさに掴んでいた腕ごとカディラを引っ張った。
カディラはルキウスの寝ているベッドに空いていた手を付いて体を支えねばならなかった。
そして、その手にもルキウスのもう片方の手が重ねられた。
ルキウスは上半身を起こしてカディラの瞳を見つめた。
吸い込まれるように、ルキウスがカディラに近付く。
「……」
「……」
「……! ごめん! またやってしまった」
息がかかるほどの距離、いや唇と唇があと少しで触れてしまう直前まで体を寄せてルキウスは我に返った。
慌てて一瞬手を離したが、でもルキウスは片方の手だけはカディラの手にもう一度重ねた。
離したくなかったから。
「手、離したくない。繋いでいてもいい?」
カディラは目を見開いて顔を真っ赤に染めたが、なんだかルキウスが小さな子供みたいに言ったので、「かわいい」と微笑んで頷いた。
しかしルキウスが少し震えながらカディラの手をなぞって指を絡ませて握り込んだとき、
カディラの心臓がものすごく跳ねた。
思ってたのと違った。
「ごめん。本当に。
病人だとつけ込んで、こんなことしたら更に嫌われると思うんだけど。
でもずっと、カディラに本当の自分を見て欲しくてたまらなかった。
ルキウスとして、カディラの前に居る実感が欲しくて……」
「そう…なのですね。お辛かったですね。
アーネストさんやメリア様に、お話は聞いています。
いざとなったら、ご自分を変えてしまう薬を飲むつもりだったと。
その薬は大変な苦しみを伴うとも聞きました。
それを聞いて、とても怖かったです」
カディラは下を向いてしまった。
「私、ルキウス様に触れられて嫌なことなど無いのですよ。
ちょっと、動悸は速くなりますが。
夢の中ではもっと色々……。んん、ではなくて……。
…………でも、……でも、
ルキウス様が怖いお薬を飲んでいたかもしれないと聞いて、そのときは本当に嫌でした。
怖くて怖くて、嫌でした……ん」
カディラが耐え切れずに嗚咽を漏らした。
ルキウスは、そっと、そして恐る恐るカディラの肩に手を置いた。
「嘘をついていて本当にごめん。驚かせてしまったよね」
「ふっ……驚いた……けど……うっぐ……でも、私……雷は……呼びま……っ……せんでした」
「良かった。本当に」
それからしばらくカディラは泣いていたので、ルキウスは手から伝わる彼女の温かさをただ感じていた。




