ルキウスは寝込みます
ずぶ濡れでボロボロになったルキウスは、男の姿態を晒して呆然と立ち尽くしていたが、駆け付けたメリアに手を引かれて部屋に戻り、そのまま倒れた。
そして、風邪を引いたのか高熱を出して寝込んでしまった。
熱など出すのは最近ではなかったことだ。
よっぽど、アレがショックだったのだと自覚がある。
皆に、カディラに、自分が男だと知られてしまった。
ちゃんと自分から偽りを打ち明けて、許しを請いたいと思っていた。
でも叶わなかった。
自分で蒔いた種だ。
悪いのはアーネストではない。
「ルキー!! ごめん ごめん ごめん ごめん ごめん ごめん わぁーん!!」
アーネスト! 静かに休ませてくれ! ごめんが多すぎる!
なんでお前だけ風邪引かなかったんだ。
一緒にずぶ濡れになったというのに。
しかも、アーネストを抱き留めた瞬間、非常にアーネストは臭かった。
あの大大山羊の臭いだろう。
こんなことも月日が経てば良い思い出になるのかな。
サラナームで過ごした夏のことを、俺はきっと忘れない。
自分はもうサラナームの地を踏むことは二度と許されないだろうけど。
いつの間にかアーネストがいなくなった。
静かになったら急に寂しくなった。
戻って来ないかな。
……自分が裏切ってしまった人たちからも、こうやって背を向けられるのだろうな。
「ルー、ルキウス…様……、大丈夫ですよ。
もうすぐ熱も下がりますよ。
ルキウス様がお国から持ってこられたお薬、よく効くそうですね。
私も今度熱を出したら頂いてもいいですか?」
なんかすごく落ち着いて、さっきまでの不安が消えた。
何が不安だったんだっけ。
さっきの声、安心するのに胸がザワザワする声、もっと聴きたい。
ずっと聴いていたい。
「ルキウス殿下、大丈夫だ。何も心配いりませんよ。
ずっと気を張り続けていただろうから、今は休めばいい。
少々邪魔が入っていたのも含めて……、気付いていたのに言ってあげられなくて済まなかった」
この声は包容力が凄い。こういう大人になりたい。
「ルキウス殿下、驚きましたが、私も目が覚めました。
私の中にあった、おかしな気負いが割れて無くなりました。んっ。
……これからは、面倒臭い自分を隠さず、正直に生きていきたいと思います」
よく分かりませんが、目が覚めて良かったですね。
「ルキウス公子殿下、私は、私は、私は……あなたと過ごしたこの短い夏をこれからの人生の支えにいたします。うっ。
……ありがとうございます」
誠実そうな声だ。よく分からないがこちらこそ。
「ルキウス公子様、いつまでもサラナームにおられれば良いのですよ。
また一緒にお茶をいたしましょう。
心配事は、すべて、わたくしにお任せください。
夫の悋気も問題ございませんわ」
なんか、一番強そうな人出できた気がするけど……、ん?!
えっ、サラナームにいてもいいの? 都合のいい夢?
「ルキシャ、もうそろそろ起きてもいいんじゃない?
ルーナ様からのお手紙も届いてるんだけどっ。
もー、カディラ様、よろしくお願いしますっ」
え、え、カディラって聞こえた、気がする。やっぱり都合のいい夢?
「ルキウス様、大丈夫ですよ。寝ていても大丈夫。
でも、目を覚ましたら、また、その、あの……一緒に、一緒に……お話しをして下さいますか?
ルキウス様と、目を合わせてお話しができるかどうか、ちょっと…不安……ある…で……」
声が遠のいて……行ってしまうのか?
あー、待って。
待って欲しい!
ルキウスは声のする方に必死で腕を伸ばした。
温かいものに触れて、そしてルキウスは目を覚ました。
そこには水差しを持って目を丸くしたカディラがいた。
カディラの黒く輝く瞳。
ずっと願っていた。
ルキウスとして、この瞳を見つめたいと。
次回「ルキウスは目を覚まします」
短編にルーナ(本物)とアーネストのお話を投稿しました。
タイトル:公国の公女が弱っているときにいつも顔だけの年下騎士が現れます




