アーネストとメリアの想い
トーカル公国から親善大使「ルーナ」に同行してきた文官たちは、「ルーナ」がサラナームと交わした事柄について文面にしての確認作業を進めている。
先にサラナームからの親書を持たせて文官の一人を公国に返した。
国で待つ宰相と、そして「ルーナ」の父であるトーカル大公にも報告を入れるのだ。
大公本人は湖水面の調整に付きっきりで国を離れられない。
そんな中「ルーナ」は独断で国同士の話をした。
本来なら色々問題があるところだが四の五の言ってられないくらいトーカル公国は窮していた。
サラナーム君主のキーズも諸々織り込み済みだ。
実質的な協議自体は順調に進んでいる。
あとは二国間での細かい数字や日時の調整はあるが、キーズは若い「ルーナ」を見くびらず、あくまで国の代表同士として対応してくれている。
ただキーズにも気掛かりが無くは無い。
特に、サラナーム側が「ルーナ」に求めた継続的な『雷帝』への協力の件は対処が必要だ。
しかしとにかく今は、トーカル公国が湖に沈まないための方策を施行するのが何より優先と考えた。
そんな親善大使一行が各々忙しくしている中、今日「ルーナ」は宮殿の図書室に案内されている。
アーネストとメリアはすることもなく二人悶々としていた。
「どうするんだ!
ルキはこの先何年も、サラナームに公女のふりをしてやって来ないといけなくなってしまった!
トーカル公国を救うためだから仕方ないと言ったって、ルキにも限界があるだろ。
サラナームに滞在中にもルキの背は伸び続けてる。
しかもあれはなんだ!
カディラちゃんといい雰囲気って、滅茶苦茶だ!」
メリアの肩がピクっと動いた。
あっ、とアーネストは思う。
「ご、ごめん。メリアは、ルキのことが……」
「そんなの、トーカル公国の女子はみーんなルキシャが好きなのよっ。
私のだって、その大勢の内の一人なだけだから。
気にしないでくれるっ」
「そうかもしれないけど……」
「そんで、トーカル公国の男子はみーんなかは知らないけど、
ルーナ様が好きよねっ」
「うっ……そっ……そーかも…しれ…ない…」
今度はアーネストの肩が動いた。
二人は顔を見合わせて、それぞれ大きなため息を付いた。
そのとき近くの山羊小屋の方から騒がしい声が聞こえてきた。
アーネストとメリアは人に聞かれたくない話をするために、メェーメェー騒がしい山羊小屋の傍にいたのだ。
二人共、大山羊の臭いにはもう慣れた。
小屋から数人走って出てきた。
焦っているようだ。
直後、一頭の大山羊が飛び出してきた。
「メルちゃん!」
メリアが可愛がっている大山羊だ。メルちゃんは女の子だ。
メルちゃんはメリアの方に駆けてきた。
メルちゃん、何かから逃げているようだ。
そしてメルちゃんの後ろから……なんか鼻息が荒いのが出てきた。
「そ、そいつ、間違って薬を飲んじゃったんだ!、興奮する薬!」
山羊小屋から出てきた一人が叫んだ。
鼻息が恐ろしく荒い、ひと際大きい大山羊は、口から唾液をボタボタこぼしながらメルちゃんを見ている。
角も巨大な大大山羊の目は血走っている。
メルちゃんは震えていてメリアに助けを求めているようだ。
山羊小屋係の一人が「土魔術使いを呼んでくる!」と飛び出していった。
残った何人かで魔術を掛けようとしているが、大大山羊を抑えるような力は無いようだ。
そのときヘタレと評判のアーネストは、
祖国のために体を張ってどうしようもなくなっているルキウスと、
その身を捧げようとしていたルーナと、
ルーナを救えないのに諦められない自分と、
色々背負ってそうなカディラと、
それからメリアのことも含めて、
もう、いろいろなことが頭にあって…………、
ブッチンッと何かが切れた。
「おーまーえー、嫌がる女子にしつこく寄ってくんなよ!!」




