図書室2
++ ガトゥール ++++++++
本日、ルーナ公女殿下はサラナームの古い文献についていくつか確認したいと宮殿の図書室を訪れておられる。
碧の貴石などの鉱物資源が魔力に対して与える影響についてだそうだ。
いつも思うが大変立派な御方だ。
二十五になる自分よりも六歳ほど年下だが、君主のキーズ様や博識のエレン侍従長と話をしても公女殿下は遜色がない。
そして自分はルーナ公女殿下の護衛として図書室に来ている。
今日この日を彼女への想いを伝える日にしよう。
そう心に決めている。
図書室には案内係としてエレン侍従長も同行している。
古い図書はサラナームの古語で記述されているものも多く、エレン侍従長の力が発揮されるだろう。
エレン侍従長は尊敬できる人物だ。
エレン侍従長の立ち会いの元で、自分の気持ちを伝えるのも良いかもしれない。
「ルーナ様!、いらしてたのですね」
現れたのは妹のカディラだった。
黄緑色のドレスを着ている。
内気だった妹だが最近外出することも増えた。
兄としては喜ばしい限りだ。
++ ルキウスとカディラと他二名 ++++++++
「……カディラ、こちらで会えるなんて偶然ですね!」
「ルーナ」のなりすましを続けるルキシャならぬルキウスは今日ベールを被っている。
表情までは見えないが喜んでいるのが分かる明るい声音が響いた。
ガトゥールは妹が誇らしくも羨ましくなった。
エレンは微笑ましくカディラを見た。
「ルーナ」の声が変わらず優しげだったので、とりあえず嫌われてはいないようだとカディラはホッとした。
しかも、
「カディラ、あなたに会えたらお話ししたいことが有ったのです。
もし時間があれば後で聞いてくれますか?」
と、「ルーナ」の方から言ってくれた。
「はい!ルーナ様のお心のままに。
今日は特に急ぎの用で図書室に来たのではないのです。
以前からばらばらに書いていた論文をちゃんとまとめようと思って…。
動力石関連なので、宮殿の図書室の本も閲覧できることになっています。
それで資料を見に来ただけなのです」
「まあ、それは、忙しくはないのですか?」
「まったく忙しくありません。
締切りも何もないのです。
ただ、自分で何かをちゃんと仕上げてみたくて。
機会が有れば、……是非ルーナ様にも読んで頂けると、嬉しいです」
ルキウスはカディラの境遇に同情していた。
以前は彼女を助けたいという想いから彼女を気に懸けてしまうのだと思っていた頃もあった。
今は違う。
カディラは辛いことにも決してくじけていなかった。
ほんの少し寄り添えば、彼女が本来持つ力強さや明るさが日の当たる場所に顕れ出るのだ。
ルキウスはベール越しでもカディラの黒い宝石のような瞳をとても眩しく感じた。
「ルーナ様、それで、私からもお願いがあります。
ルーナ様のお話を伺うときに一緒に聞いて頂けますか?」
「うっ……そ、それは……こう……抱擁?……みたいなこと?」
どうしようと戸惑い、ルキウスはベールの下で赤くなった。
「いっ、いえ!、その、そのようなことでは決してありません!」
違った。ルキウスはほっとした。
少し残念な気もしたが。
いやいや、今のルキウスには「ルーナ」としてカディラを抱きしめることなど容量過多で破裂しそうだ。
ただルキウスとして、カディラに触れる権利は……欲しい。
++ エレン ++++++++
本日の図書室へのご案内。
ルーナ殿下に想いを告げる機会が来たのだ。
ルーナ殿下は勉強家でサラナームの古語で書かれた文献などもご覧になられる。
サラナームの古語はさすがに難しいので私がルーナ殿下に教えて差し上げる。
至福の時間だ。
ベール越しでも彼女の流麗さが伺えてため息が出そうになる。
正直、女性に自分の想いを伝えるなどしたことがない。
これまでは女性の方から寄って来てくれたし、想い人には気持ちを告げられないまま終わってしまったのだ。
告白なんて自分にできるだろうか。
心配になってきた。
いやしかし。いやいやしかし。
あと、護衛でガトゥールが来ているがやつはルーナ殿下を見過ぎだ。
まじめで四角四面な男は何も考えないで行動するから、やっかいだ。
いや、考えすぎる自分の方がもっとやっかいだった。
ともかくルーナ殿下と二人の空間を作りたい。
なのに、やつが邪魔で困る。




