ルキシャは雷帝の仕事場に来ています2
空には薄くて白い雲が広がっていた。
そこに突如真っ黒の点が現れて、それが広がり暗くて重い雲のかたまりになった。
でも大きい雲ではない。
広い空の一部分だけに暗い穴がパカッと開いたようにも見える。
その暗い穴からスーっと流れ星のように光るものが一筋落ちてきた。
そしてそれはカディラが胸の前で掲げていた彼女の掌の少し上に留まった。
小さな雷だというそれはチリチリと音を立てている。
今日のカディラは宮殿で見たときのように髪を金髪にはしていない。
ただ、いつもは黒い宝石のような丸くて大きなその瞳が、今は金色に輝いている。
( 金の瞳!、なんて、なんて……きれいで………愛しい… )
ルキシャはベールの隙間から、ただただカディラの瞳に見惚れていた。
カディラは同じ動作を何度か繰り返し、手のひらに集めた黒光りする石のような塊を置いてあった壺の中に重ねていった。
あの黒く見える石が『奇跡の動力石』なのだ。
「だいたい半日の作業で、サラナームで使うひと月分の動力石が用意できます。
保存もできるので、この先の将来の分も今は溜めていますね。
でもこれはカディラにしか作れない動力石なので、
サラナームでは『奇跡の動力石』が無くても生活できるように、従来通り、魔術の研鑽にも尽力していますよ」
「……あ、あの……感動……してしまって、……とにかく素晴らしいですね」
「他国からは軍事利用の申し出もありましてね。
それやりだすと『奇跡の動力石』だからと言っても生産に追い立てられますからね。
お断りしています。
本当に今の時代だけに与えられた奇跡なんですよ。
だからこそ、この奇跡に頼り切った使い方は絶対にしない。
それが『サラナームの君主である僕の務め』ってとこですかね」
おじさん君主キーズがわざと少しだけ胸を張った。
作業がひと段落して、カディラがキーズに呼ばれてやって来た。
ルキシャの心臓がまた急に鳴り出す。
カディラは黒いローブがやはり暑かったらしくそれを脱いで汗をぬぐった。
カディラはローブの下に、グレーのシャツと濃紺のトラウザーズそして若草色のクラバットという少年のような恰好をしていた。
( か、かわいい…… )
作業しやすいように装いは男性用のものだが、それでもカディラの女性らしい華奢で丸みのある姿態が突然現れてルキシャは目のやり場に困った。
意識してしまった自分が大変恥ずかしい。
カディラには再度ローブを羽織って欲しくなる。
キーズはルキシャをニコニコ見つめてから、カディラに言った。
「カディラ、いつもながら見事だったよ。ルーナ殿下も褒めておられた」
「ありがとうございます!」
「ふーむ。なんだか今日はいつもよりだいぶ元気だね?」
「はい!ルーナ様がいらっしゃると思うと、心が弾みます!」
カディラが可愛すぎる。
ルキシャが耐え切れず顔を赤くした。
ベールがあって助かった。
キーズが言う。
「カディラ、何か褒美をねだってもいいが、どうする?」
「ご褒美…、……あの、その……言うだけ言ってみても良いでしょうか?」
「何かな? カディラがそんな風に自分の気持ちや要望を伝えてくれることは今まで無かったからね。
是非に聞きたいな」
本当に今日のカディラは感情表現が豊かだ、とキーズは驚く。
キーズもカディラが心の動揺を抑えるために引き籠っていることを気に病んでいた。
カディラの望みがあるなら叶えたい。
「あの、あの………ルーナ様に……『カディラ』って呼んでもらって……、
それで……、
それで…………、
抱きしめて……欲しい…です!」
「「!!」」




