ルキシャは魔術の国を目指します2
ルキシャの祖国トーカル公国は、カルデラ湖の周りをぐるっと一周する形になっている風光明媚な小国だ。
主な産業は農業。それと少しだけ採れる鉱物資源。
畑で作物を育てるにも、生活用水としても、人々はこの湖の水を使っている。
まさしく命の水だ。
今年の冬の終わり、この湖に異変が起きた。
何十年かに一度噴火する火山の活動で湖の水源の状態が変わった。
もともと湖の底から湧いていた水の量が一気に増えてしまった。
大変だ。
湖の水が徐々に溢れ出したのだ。こんなことは初めてだ。
湖から流れ出る川は無い。
これまでは湖に入ってくる水と出ていく水が絶妙にバランスを保っていたのだ。
トーカル公国で人々が暮らす平地は、その地面の高さが湖面とそう変わらない。
湖の水は段々と人々の住む街や畑を覆い出した。
この事態にトーカル公国を統治する大公は、湖の水を一番近くに流れる川に流そうと農業用のポンプで湖水を吸い上げる措置を取った。
賢明な判断だと思う。他に方法が見つからなかった。
トーカル公国は魔術の無い国だ。
人々の知恵と工夫で、この小さな公国は成り立ってきた。
火山から流れ出る豊かな土壌の恵みは様々な農作物をもたらす。
そして、公国は農作物と少しの鉱石を他国に売った収益で動力源となる動力石を輸入している。
動力石は公国内で広く用いられ、生活に必要な機器のほとんどを動かすことができる燃料だ。
今回の対応でポンプを動かし続けるために、大公は公国で次の冬に使う予定の動力石を充てた。
季節は春になって夏になった。
湖の水は変わらず増水し続けている。
動力石は……、どんどん無くなってゆく。
「大公殿下、動力石を使い切ってしまったら我が国は冬を越せません!」
「うっ…しかし、ポンプを止めれば冬が来る前に公国は湖に沈んでしまうぞっ」
トーカル公国大公は宰相と悩ましい問題に対応を迫られている。
大公はルキシャの父で、宰相はアーネストの父だ。
色々考えてみたが打開策が見つからない。
動力石はトーカル公国では作れないので全て他国に頼っている。
動力石の生産国では細かく量を制限していて簡単に追加注文できるものではない。
もちろんタダでもない。
融通してもらうにしても限度がある。
ポンプを使わずに湖の水を川に流す大掛かりな土木工事は時間も金もかかる。
トーカル公国の懐事情ではポンプを使ってその場しのぎをするのが今はやっとなのだ。
大公は居城から見える湖を見つめて呟いた。
「自然には逆らえないということか。トーカル公国は湖に沈むしかないのか……」
祖国を離れ、どこかへ逃れるしか道はないのか。




