天空祭り
まだ明るい青さも残している空が、だんだん藍色に染まってきた。
一番星が輝いた。
天空祭りの始まりだ。
「ルーナ」のふりを続けるルキシャは、宮殿に連なる城壁に用意された貴賓席に座っている。
カディラは、今日の昼の検証のあとに帰宅したと聞いた。
まだ、大勢が集まる場所に不用意に出るのは憚られるとのことだ。
カディラはサラナーム中が心躍らせる天空祭りに一度も参加したことがないらしい。
毎年この日は家でひっそり過ごすという。
貴賓席から見える広場には沢山の屋台が出ている。
周りを囲む建物や岩壁にも大小の明かりが灯されている。
さすが『奇跡の動力石』を持つサラナームだけあって、その数が凄い。
様々に彩色されたガラスを通して、光があちこちに満ち溢れていた。
「ルーナ公女殿下、少しの間失礼します」
君主のキーズが祭りに参加できなくなったため、急遽、サラナームの妃と高官が「ルーナ」を案内することになった。
高官たちは少し離れた席に既に着いているが、ルーナの隣の妃の席はまだ空いている。
到着が遅れているようだ。
その確認のため、ガトゥールが「ルーナ」の御前を離れた。
それを見計らってアーネストがルキシャに近づいた。
こっそりと耳打ちする。
「ルキ、彼女来てるよ。話がしたいんだろ」
ルキシャがアーネストの目線を追う。
ルキシャは目をみはった。
カディラが居たのだ。
そこには控えている侍女たちがいて、その中に侍女の恰好をしたカディラが紛れていた。
アーネストがカディラにこっそり参加するよう話したのかもしれない。
広場で音楽に合わせて踊りが始まった。
大勢で輪を作っている。
皆楽しそうだ。
ルキシャはそれをよく見ようと席から立ち上がった。
後ろに控えるメリアに一言伝える。
メリアは侍女たちの方へ行き、
「ルーナ公女殿下は飲み物をご所望です」
と声を掛けた。
麗しのお姫様のご要望に侍女たちが様々な飲み物と食べ物を取りに行った。
一人、侍女に扮したカディラだけが残った。
ルキシャがそちらに近付く。
「侍女のふりをしてる……のね」
「ちょっとだけお祭りを見てみないかって言われて……、前からとても見たかったのです」
カディラがこれまで色々我慢してきたことをルキシャも聞いている。
胸が痛む。
「碧の貴石があれば、これからは出来なかったことが出来るようになりそうね」
「そうですね。そうなると……いいなあと本当に思います。
……ああでも、ルーナ様、
私はこれまで不幸だったわけではないのですよ。
父母が他界したときは悲しかったですが、それでも大事にされた記憶が残っています。
もちろん、兄も私のことをいつも心配してくれています。
『雷帝』としての役割も私の支えになっています。
魔力は私にとって重い枷ではありますが、辛いこともありますが、誰か他の人に代わってもらいたい、と思ったことはありません」
ルキシャの被るベールから煌めく石が取れて落ちた。
カツーンと高い音が鳴った。
そのとき、広場の明かりも、宮殿の明かりも、とにかく全ての明かりが一斉に消された。
一瞬、黒い闇に包まれるが、目が慣れてくると夜空の星がわーーーっと視界に広がった。
「すごい! ルーナ様、あんなにあんなに星が見えます!」
待機していた火魔術使いたちが魔術で蝋燭に火を付け、淡い光で足元だけを照らしている。
ルキシャは自分が姉の居場所を奪い続けていると思っていた。
でもそうだ。
だからと言ってルキシャも他の誰かになりたいわけではないのだ。
カディラは特別なことを言ってない気がする。
そもそも、ルキシャの個人的な感傷など知るわけが無い。
でも何故カディラの言葉は、こんなに、響くのだろう。
ルキシャは、先ほど鳴った音が、自分が何かに落ちた音だと感じた。




