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天空祭りの日の昼間2


 数刻前の王宮の庭の広場には椅子が用意されていた。

「ルーナ」とカディラが向かい合って座っている。若干距離がある。

「ルーナ」とカディラはただ一緒に居るだけ。

「ルーナ」とカディラは言葉も交わさずに見つめ合っていた。


 「ルーナ」に至っては薄灰色のベールも被っているため表情までは分からない。

 ただ不測の事態に備えるため、それぞれすぐ背後に護衛を従えていた。

 サラナームが「ルーナ」に求めた条件。これが手始めだ。


 「ルーナ」は本当にカディラが『黒闇の残酷雷帝』になることを防ぐ手立てになるのか。

 その検証に「ルーナ」は参加しなくてはいけない。

 サラナームは『奇跡の動力石』を譲る見返りに、継続的に「ルーナ」が『雷帝』に協力することを求めている。


 『奇跡の動力石』の製造には『雷帝』が必要だ。

 しかし史実のような『残酷雷帝』になられては扱いが難しい。

 サラナームが示した条件は『奇跡の動力石』の安定供給にも繋がるのだから「ルーナ」は是非にもこれを呑むべきなのだ。


 「ルーナ」にはアーネストが、カディラにはガトゥールが付いている。

 他にも護衛は居るが沢山いれば良いというものでもない。

 急時には巻き込まれないで逃げられる瞬発力も考慮して陣形を組んだ。

 サラナームの護衛たちは『雷帝』の発作について皆知っているので臨戦態勢だ。

 屋外なので、いざというときは土魔術で壁を築くそうだ。


 ところで「ルーナ」を装うルキシャは何故だか油断すると気持ちがキリキリしそうになる。

 カディラじゃなくてルキシャの方が落ち着かないのではないだろうか。


( なんで、アーネストの方がカディラと仲良くなってるんだ。

  俺の方が先に会ったのに。

  カディラはアーネストのような背の高い男が好きなのだろうか…… )


 アーネストは長身、対してルキシャは最近になって背が伸び始めたところだ。

 そして今日もアーネストはトーカル公国の騎士服の下に布を腰のところで巻いている。

 サラナームの護衛たちも刺繍の施された布を皆巻いているが、サラナーム人でもないアーネストが真似をしているのがルキシャには腹立たしい。

 アーネストの長い足が際立っているように見える。


 衝撃を和らげるための風魔術が仕込んであるというその布、アーネストに巻き方を教えてくれたのは他でもないカディラだという。

 教えてくれたときにカディラはアーネストの体に少し触れたのではないだろうか。

 それを想像してルキシャはキリキリが抑えられなくなる。


 いっそのこと、ルキシャにも雷が呼べたらいいのに。

 いや魔力は一切無いのだった。


 一方、カディラは頬を紅潮させて「ルーナ」に再会できた喜びで震えそうになるのを耐えている。

 ガトゥールは「ルーナ」の麗しい佇まいが今日は憂いも帯びているのにうっとりしている。


 とにかく、何もないまま時間だけが過ぎる。


「あの、ちょっと、カディラ嬢の脈が速くなって……」

「魔力が揺らぎ始めています!」


 護衛に交じって医師や魔術研究者も同行している。

 皆に緊張が走った。


 アーネストが言って、トーカル公国の護衛騎士を建物内に下がらせた。

 魔術も使えない上に慣れないトーカル公国側は、雷が近付きそうになったら、邪魔にならぬようアーネスト以外は先に避難することになっていた。

 だったら最初からいない方がいいような気もするが、国外で「ルーナ公女」に侍る者がいないわけにもいかない。


 アーネスト以外が十分に離れたことを見計らって、ルキシャがベールを取った。

 そしてカディラの瞳を見つめる。

 医師と研究者が叫んだ。


「さ、さっきより、脈が、脈が速まってきました!!」

「魔力量!増大…してな?……」


 「ルーナ」とカディラを取り囲む護衛たちが息を呑んだ。しかし。


 空の雲はのんびりぼんやりとたたずんでいる。風も無い。

 遠くで山羊が鳴いている声が聞こえる。

 カディラが言った。


「すごくドキドキしてますが、魔力が溢れたりはしてないです!」


 カディラが本当に幸せそうに花が綻ぶような笑みを見せたので、ルキシャの心臓はそれに釘付けになってしまった。


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