ルキシャはキリキリします
ルキシャは命を懸けた賭けに勝ったようだ。
いや違う。
勘違いしていただけで、もともと命を懸ける必要は無かった。
でもでもしかし、正攻法でトーカル公国とサラナームが『奇跡の動力石』についての協議を行っていたら、時間もかかっただろうし、ここまでの成果にはならなかっただろう。
一つ目の成果で、トーカル公国はサラナームから『奇跡の動力石』を必要なだけいくらでも譲り受ける約束を取り付けた。
サラナームは『奇跡の動力石』を大量に保有しており、欲しいだけ出せるそうだ。
無償では無いが支払いは待ってもらえる。
そしてトーカル公国は今後、採取した碧の鉱石をサラナームへ優先的に渡すことになった。
トーカル公国として、これは特に問題が無い。
しかも二つ目の成果で、サラナームは貴石として高値で買い取ってくれることになっている。
ここでサラナームは「ルーナ」に対して『奇跡の動力石』を譲るための条件を要求したが、それも友好的采配と言えるものだ。
背水の陣で臨んできた公女にこの条件を断る理由は無いだろう。
最初、君主キーズは「ルーナ」へのこの条件提示を渋ったが、サラナームの高官たちに押される形で承諾することになった。
即断即決を身上とするキーズとしては珍しく決めかねているようだった。
反対に、国政にも影響力のあるエレン侍従長はこの条件提示に賛成した。
エレンは他の高官たちに根回しすらした。
条件は、トーカル公国側から見ると、「ルーナ」が生贄になるような話からすれば随分温情的だ。
そしてサラナーム側にすれば、懸案だった『雷帝』への処遇として願ってもないことだ。
君主の方にもこの条件提示に異を唱える理由は見つからないはずだ。
サラナームの出した条件、それは、「ルーナ」に『雷帝』への協力を今後継続して求める、というものだった。
エレンは思っていた。
キーズが公女に対して条件を示すことに躊躇したのは、君主としての判断ではないだろう、と。
「ルーナ」への個人的な恋慕から、キーズは自分を良い人間に見せたかっただけに違いない、と。
エレンはキーズの魔力の強さや魔術の見事さにも、君主としての統率力にも素直に尊敬の念を抱いている。
そして、君主の侍従として自らが力を発揮できていることに喜びも感じている。
過去のことだって既に割り切っている。
しかし「ルーナ」に関することは別だ。
「ルーナ」がキーズを好ましく思うようなことは避けたい。
一瞬行方の分からなかったアーネストが、サラナームの刺繍が入った布をサラナーム風に腰に巻いてルキシャの前に現れた。
アーネストだけは他の親善大使一行と違い、疲労が限界まで来たところに崖上りのアトラクションに遭遇するという憂き目に逢っていない。
おかげで憎らしいくらいに元気だ。
メリアなんて一番症状が重かったので、なんとか話ができるくらいにようやくなったところなのに、だ。
いや、憎らしいのは元気だからが理由ではない。
そんなことよりも。
( アーネストがカディラの家でカディラの手料理を食べたって、どういうことだ?! )
ルキシャがアーネストに詰め寄る。
「アーネスト! おっまえ、カディ……、ど、どこに行ってたって?!」
「るーな公女さま、『おっまえ』はまずくないですかね?
ここには、ルキシャとメリアとオレしか居ないけどね……。
そんなことより!
『黒闇の残酷雷帝』に会ったんだろ?
それでまだ生きているってことは『パターン公女』で行くのか?」
ルキシャは、アーネストが言った「そんなこと」が気になったが、アーネストと横になっているメリアに、君主との謁見と、『雷帝』と、その後の会談についても全て話した。
今後「ルーナ」がサラナームから求められる役割を条件として提示されていることも含めてだ。
そしてルキシャがため息を吐きながら言った。
「とりあえず、『雷帝』陛下の婚約者にはならなくてよくなった。が。
今更、どの面下げて公子ですって……」
「むー」
「ん……っ」
「いや。言わないといけないな。
サラナームは、こちらの説明に誠意を見せてくれた。
今後のこともある」
「そうかー」
「そ……っ」
「今は君主のキーズ様と話せないか侍従長に聞いているところだ。
なんでも今忙しいらしくて、キーズ様はなかなか時間が取れないそうだ」
エレンからそう言われている。
できればキーズと二人きりで話がしたいのだ。
とんでもない計略を立てたルキシャだが、やはり「本当は男です!」と大勢の前で宣言するのは気が引ける。
ところで、だ。
( アーネストがなんでカディラと仲良くなってるんだ?! )
「いやいや、だから。なんで? アーネストがなんでカディ……、
とにかく、なんでだ?!
その浮かれた布の巻き方はなんなんだ!」
なんでルキシャはキリキリしているのか。
自分でもよく分からない。
「なんで……が……うっ……うる…さいっ」
可哀そうなメリアが振り絞って言った。




