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心を痛める不審者


 ガトゥールの家でガトゥールの服を借りた、不審者改めアーネストがカディラの作った食事を頬張っていた。

 アーネストの亜麻色の髪はまだ乾いておらずクルクルとあちこちに跳ねている。

「……ぐっ、たいへむ、おいひい…です」

「それは良かったわ、アーネストさん、かなりお腹すいてたのね」


 カディラが薄っすら微笑んだのでガトゥールもやれやれとアーネストを見た。

 なんとアーネストは親善大使の護衛騎士としてトーカル公国からやって来たというのだ。

 獣臭が染みついていたアーネストの上着にはトーカル公国の紋章が入っていた。

 只今乾かしているところだ。

 もちろん、しっかり洗ってある。


 不審極まりなかったアーネストだが、あの「ルーナ」の護衛なのだ。

 おもてなししないわけにはいかない。

 カディラに至っては「ルーナ」の話が聞けるかもしれないと控えめにワクワクしているようだ。



( ルーナ様の護衛騎士様が迷子になって我が家を訪ねてくるなんて、なんて偶然! )


 カディラはなんだか、あの妖精姫のような「ルーナ」が本当に自分と友人になってくれるかもしれないという期待を拭えないでいた。


 だって、なんと言っても、

 カディラは「ルーナ」にギュッと抱きしめてもらったのだ!


 更に言うと後から考えてみても、「ルーナ」の碧の瞳がカディラの発作を収めてくれた可能性が高いと感じる。


 「トーカル公国の碧の貴石には魔力を安定させる効果があるようだ」という話をカディラは魔術研究の文献で読んでいた。

 信憑性は定かではなかったが、兄ガトゥールを通してキーズ様にも上申していたことだ。

 でも本当にこんな奇跡のようなことが起こるなんて。


 こころを揺らさないようにしなければいけなかったのに。

 でも、もう揺らしても大丈夫!、になるかもしれない。

 しかもあの限りなく麗しい「ルーナ」は、カディラ、と名前を呼んでくれた。


 カディラ、カディラ、カディラ……、カディラの脳内で「ルーナ」が呼びかける。

 カディラの夢の時間をアーネストが遮る。


「カディラさん、ル、ルーナ公女に会ったっていうの、遠くから見掛けたってこと?」

「あら、いえ。どうかしら。

 割とお傍で……あの碧の瞳を拝見した、と思います」


 脳内「ルーナ」の手がカディラの髪をすくって耳に掛けてくれた。

 そう言えば、「ルーナ」は意外と手が大きかった気がする。


「そ、そのとき、何か気が付いたこと、とか? 無いかな?」

「そうですね……スズランのような、爽やかな良い匂いがした気がします……」

「……ああ、そー……まあ、見た目は完璧だもんなー……」


 肩を落としたアーネストが今度はガトゥールに聞いてみると、


「ルーナ公女殿下は、なんというか、カディラが好きな花のような方だ。

 花びらが何重にもなっている、大輪だけど派手と言うよりは凛として孤高の、唯一無二の美しい……方だ……」

「あにうえ、ルーナ様はこの世にあるどのお花よりも、もっと素敵だわ!」


 この兄妹は親切だが夢見がちな特徴があるようだ。

 とりあえず、ルキシャはルーナになりすまして皆の前に現れたらしい。


「アーネストさん、ルーナ様のお好きなものって何かしら?

 今度、持って行って差し上げたいわ」

「俺も知りたい。ルーナ公女殿下に喜んでいただきたい。

 俺のことも知って……頂きたい……」

「あにうえ! 私も」


 えぇーーーー。


 とにかく、ルキシャがルーナを演じている間の関係者を減らしたいのだが、この兄妹はがっつり「ルーナ」に入れ込んでいるようだ。


( ほんとは男だって知ったら、この人の好い二人が……がっかり……するだろうな )


 ルキシャに振り回されて一人心を痛めるアーネストだった。


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