ルキシャはお詫びします
宮殿の客室で目を覚ましたルキシャは、手にぐっと気合を込めた。
「キーズ様、昨日は大変お見苦しいところをお見せしました。
どうぞお許しを頂きたく存じます」
「ルーナ」に扮したままのルキシャは立ち上がってサラナームの君主キーズに最敬礼で謝罪した。
ここは昨日の広間ではない。
ルキシャは会議を行うテーブルを囲みキーズに対峙している。
これはごく少人数で行われており、トーカル公国からはルキシャだけしかいない。
ルキシャは今日、薄緑色のドレスを纏った。
「いやいや、こちらこそ。
広間で危険なことに巻き込んだのは、こちらの不手際に他ならない。
まあ、騒ぎの要因自体はルーナ殿下にもあるのですが、それこそ、ご存知なかったことでしょう?」
「それが、今でもよく理解できていないのですが……」
「彼女が、カディラが『雷帝』だと言うことは、もうお分かりですね?」
それは分かる。発光する彼女を見たのだ。
雷雲も雷鳴もカディラに呼応していたように思われる。
『奇跡の動力石』の製造に深く関わるという『雷帝』はカディラだったのだ。
キーズはつらつらと説明した。
「カディラは、我が国でも大変珍しい、雷を呼ぶ魔力の持ち主です。
カディラは生まれたとき、残酷雷帝の再来と言われていました。
その呼び名が今でも残って、カディラのことを『残酷雷帝』と呼ぶことがあります」
「もともと『残酷雷帝』というのは歴史書に記された人物が死後に付けられた名前のことで、カディラ自身は『残酷』でもないし、『雷帝』という地位にあるわけでもないのですよ」
「確かに、歴史書の残酷雷帝は、当時の統治者の子として生まれたその日に、沢山の人々を落雷に巻き込んで死なせてしまいましたが、これまでカディラは、そこまでの事件を起こしていません」
「『雷帝』が好色だとかいう話は……、多分、僕の迷惑な噂と混同されているようですが……、
そもそも!、真実とは、一切!、まったく!、異なりますからね。
僕は美しい女性の鑑賞が好きなだけで……、いやいや、とにかく事実無根です」
「我が国はトーカル公国とこれまで国交も無かったわけですが、お互い、多重に多方向に誤解が生じていたようです……」
トーカル公国側は『雷帝』についての勘違いを恐ろしく募らせてしまった。
そもそも、『雷帝』が苛烈な君主を示すものだと決めつけていて、その考えから離れることができなかった。
この会談の場で「ルーナ」はキーズから、『残酷雷帝』の呼び名が残されているのは他国が『奇跡の動力石』を奪おうと考えないための国策による方便でもある、と教えられた。
キーズはそんな国家機密のようなことも話してくれた。




