不審な男
「ルーナ」公女が親善大使としてサラナームを訪れた夜、ガトゥールが「ルーナ」のことを想って胸を高鳴らせていたところに、玄関ドアを誰かがノックした。
ガトゥールは驚いてドアを怪訝そうに見た。
夜更けにガトゥールの家を訪ねたのは、まだ十代であろう不審な若い男であった。
上着と布の塊を両手に抱えて、徒歩で来たらしい。
身に着けているものからサラナーム人ではないようだ。
どうやら迷子になっているそうだ。
男はなんだか変な臭いも漂わせている。
ガトゥールはこの怪しい男の容姿がなかなか優れているところも含めて信用ならないと判断した。
「夏だから外でも死なない。水とパンはやる。軒先で休むのは許してやろう」
それでも、根が親切なガトゥールは男が玄関先の外壁にもたれて休むのを許してやった。
翌朝、男はまだガトゥールの家の前に居座っている。
何やら、木の棒を拾ってきて剣の鍛錬をしているようだ。
ガトゥールも朝の鍛錬を日課にしているが不審人物と一緒にやる気もない。
邪魔だなあと思っていると、男の方からドアをノックしてきた。
「あのー、食事を少々分けて頂けるとありがたいのですが……」
図々しい奴だ。
「あにうえ、大丈夫ですよ。私は引っ込んでるから。
あちらは魔力ゼロみたいだし」
玄関ドアには訪問者の魔力量を確認するための簡易な計器が付いている。
サラナームではどこの家にもある防犯グッズだ。
妹はどうやら機嫌が良いようだ。
つられて気分の良くなったガトゥールはもともと気の良い男なので玄関ドアを開けた。
ガトゥールはごつい見た目だがとても優しいのだ。
「くさっ!」
そのままドアを閉めた。
さすがのナイスガイ・ガトゥールにも無理だった。
「あー、なんか臭いですよねー。
自分でも分かるんですけど、なんの臭いだろう?
動物っぽい…ような?」
「多分、山羊の唾液だ。他にも、にょっ……、いや唾液だ!
洗わないまま時間が経過して大変なことになっている。
湯をやるから、外で服ごと洗え。
少し下がっていろ」
ガトゥールは臭くて不審な男に大きめの桶で湯を何杯か運んでやった。
結局男は全裸になってガトゥールに掛けられる湯で体を洗うことになった。
一応臭くなくなった不審な男は言った。
「ありがとうございます!
やー、なにか色々とさっぱりしました。
オレ、何しにここに来てる……んだっけ?……あっ!」
「何か思い出したのは良かったが、とりあえず、我が家には年頃の妹もいるんだ。
さっさと服を着なければ、おまえを山羊小屋に連行するからな!」




