君主キーズ
サラナーム国の君主を当代はキーズが務めている。
キーズは国で一番の火魔術使いであり、そして人を見る目があると自負している。
だからこそ君主なんてものをやれているのだ。
臣下も、そして今、目の前にいるキーズの妃も、キーズがユルいおじさんだと思っている節がある。
まあそういう状況も利用価値がある。
しかも多少合っていると言えなくもない。
「キーズ様、大変宜しゅうございましたわね!
トーカル公国の親善大使は、それはもう女神の如き麗しさであった、と多数報告を受けております。
噂以上の美姫とは……もう笑うしかございませんわね。
しかも! あ ち ら からキーズ様の『伴侶に』と言ってきたのでしょ?
今夜はお祝いですわね!」
「やれやれ、そんないい加減な情報で完結してたら、君主の妃なんてやってられませんよ?
あなたも自分の目で直に公女殿下を見るべきでした。我が最愛のお妃様」
「いい加減とは何よ! ……ふざけないで、馬鹿にしないでよ!
……最愛……だなんて……」
「僕の最愛は君だよ、アーリン。君だけ。間違えないで」
「……」
「えーとまず、トーカル公国の公女殿下は、僕では無くて、違う人物の伴侶になりに来たそうです。
それは広間にいた全員が聞いていた話だからね」
「えっ……」
「もちろんそれは別として、今回も、これからも、僕が第二妃を迎えることはありません。絶対に」
「……そう……なの?」
「絶対に。なぜなら、僕のお妃様はアーリン、君だけだから。
僕は君だけのもので、君も僕だけのもの。
僕の忠実な侍従にだって、君を渡さない」
キーズがこんな風に言ってくれると本心ではアーリンも期待をしていた。
すごく不安だったけど、でもキーズを信じたかったから。
サラナームでは魔力の高い者が複数の伴侶を持つことが容認されている。
魔力の高い子孫を残そうという考えの元にだ。
アーリン自体が強い魔力持ちの父にとっては第三夫人だった母より生まれている。
アーリンは父の魔力をまったく受け継がなかったのだが。
アーリンが夫の肩に自分の耳を寄せたのでキーズはアーリンの腰に手を回した。
やっぱり意地を張ってないで謁見の場に同席すれば良かったのかもしれない。
アーリンも思うが、でも怖くて。
噂の美姫と自分が比べられるのが。
「あと、そもそもの話なんだけど。僕、そっちの趣味は無いんだよね。
残念ながら」
確かに危なかったけど……とキーズは思った。




